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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
233/888

金の糸 3

絢香の檻は絢香の背丈ほどの高さの巨大なテーブルに置かれていた。見上げてみると金の檻は美術品のように荘厳だった。絢香はうっとりと見惚れた。


部屋をぐるりと見渡す。大きな体育館のような場所だ。そこここに白い箱のようなものが置いてある。近づいて触ってみる。ひんやりした硬質な、石のようなものに思えた。エリーを振り仰ぐと、一つの箱に座って見せた。椅子だったのか。絢香の胸の高さほどのその椅子によじ登ってみる。硬質な感じは変わらないのに、座面は居心地よく暖かだった。

そこからは部屋のなかがよく見渡せた。

壁は全部つるんとしていて窓はなく、先日通った扉があるだけ。その扉も壁にわずかな切り込みがあるだけで、ぱっと見ただけでは他の壁と変わりない。

部屋にあるのは檻とテーブルと椅子だけ。

応接間のようなところなのだろうか?首を捻ってみたがわからない。

絢香は椅子から飛び降りると部屋の端まで歩き、反対の端まで歩いてみた。10メートルくらいはあるだろうか。広々としている。ここ数日檻の中でじっとしていたので体が鈍っているように感じる。部屋のなかをとことこと歩いて回る。

エリーは絢香がすることをにこにこと眺めていた。


それからは毎日、一時間ほど檻から出され運動をした。歩いたり走ったり椅子によじ登ったり。

ある日、絢香は椅子に座ったエリーの膝によじ登ってみた。

エリーは驚いたように目を見開いて、絢香をまじまじと見つめた。そして目をほそめ絢香の頭を撫でた。


エリーが絢香の元へやって来る頻度は日増しに増えた。そのたび絢香はエリーになにがしかの言葉を与えた。エリーは、絢香を見つめ耳をそばだてて、絢香の言葉を一言も聞き漏らすまいとしているようだった。犬のエリーが喜んだ様子に似ていて、絢香はいろいろと語りかけた。


「 」


エリーも度々、絢香に話しかけた。初めのうちは不快さに顔をしかめていたが、日がたつにつれ慣れていき、絢香はエリーの呼び掛けに答えられるほどになった。


「 」


繰り返されるその音は、絢香につけられた名前のようだった。


「 」


「なに、エリー?」


二人はそれぞれが新しくつけた名前で呼びあった。



ある日、絢香は檻のなかで寝そべって鼻歌を歌っていた。その時部屋に入ってきたエリーは檻に駆け寄って顔をぐっと近づけた。


「どうしたの、エリー?」


エリーは投げキッスのような動作をしてみせた。

絢香は歌の続きを歌った。エリーは目を見開いて歌を聞いた。


歌い終わるとエリーは絢香を檻から出して抱きしめ、部屋の外へと早足で進んだ。いつもの黒い布もなく、冷たい空気の中、絢香はエリーにピタリと抱きついた。


「   !」


見慣れぬ部屋に飛び込んだエリーはその部屋にいた男に何事かを叫んだ。エリーが大声を出すなんて初めてのことだった。絢香は驚いてエリーの顔を見上げた。


「   ?」


男が何事かをたずねると、エリーは腕のなかの絢香に、あのジェスチャーをしてみせた。


絢香は頷いて歌った。


男はぽかんと口を開け、エリーは満足げな表情だった。


翌日、絢香は檻ごと隣の部屋に移された。そこにはたくさんの者たちがいて絢香を見つめていた。

絢香はエリーに促されるままに歌った。場がざわめいた。皆が絢香を見つめ、手を振り上げた。

歌が終わると人々は口々に何かを言い合い、急いで立ち上がると部屋を出ていった。

その後をついていったエリーはすぐに戻ってきて、檻のてっぺんに赤い紐を結び、絢香に微笑み長々と何かを語りかけた。

エリーがそんなに長く言葉を紡ぐのを初めて聞いた絢香は不安な気持ちに襲われた。

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