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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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黒髪のしずく

黒髪のしずく

もう何度目か数えるのも飽きた。待ち合わせたコンビニで雑誌を眺めながら、茜は虚脱感を感じていた。


あの人を亡くしてから、恋を忘れた。けれど人肌恋しくて行きずりの男を求めた。

出会い系は便利だ。一晩だけの相手など掃いて捨てるほど見つかる。

名前も知らない相手と肌を合わせることに最初は背徳感を覚えた。それはあの人への想いを汚す行為のように思えたから。

けれど日をおうごとに背徳感は苛立ちへと変わった。あの人への小さな怒り。自分を連れていってくれなかったことへの恨み。それを晴らすために男と会い続けた。


「あなたですか?」


後ろから声をかけられ振り替える。どこにでもいるような男。中肉中背、特徴のない顔、ただ一つ、額が後退しかけているのが、なんだかおかしく、茜はふと笑って頷いた。


「行きましょうか」


男の車はきれいに掃除が行き届いていて、座り心地がよかった。無言のままホテルへ行き、無言のままことを終えた。

シャワーを浴びようと浴室へ向かうと男もついてきた。


「シャンプーさせてください。女の人の髪を洗うのが好きなんです」


変な趣味。茜はまた笑う。男にシャワーをあててもらう。シャンプーの泡が優しく髪を包む。男の指が頭を撫でてくれるように動く。

涙が溢れた。あの人に頭を撫でてもらった時のことを思い出して。茜は静かに泣いた。

男はドライヤーもかけてくれた。そのころには茜の涙も乾いていた。

男と茜は無言で別れた。ただ、いつもと違ったのは男が名刺をくれたこと。


「あなたの髪は素晴らしい。また洗わせてください」


出会い系で出会った男とは二度とは会わないと決めていた。


「シャンプーだけでいいんです」


茜は名刺を受け取った。名刺には美容室の店名と男の名前が書いてあった。くすくすと笑いが止まらない。きっと私はこの美容室に行ってしまうだろう。そうしてあの人をゆるせるときがくるだろう。

茜は星空を見上げて、また少し笑った。

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