227/888
桜が散ったら逢いましょう
桜が散ったら逢いましょう
あの人と約束した。
「桜が散ったら逢いましょう」
花が咲いてから、日に日に落ちる花びらを数えた。
一枚散った。
二枚散った。
三枚散った。
そうして風が吹いた。
数えきれないくらい散る花びら花びら花びら。
うれしくて、うれしくて、踊りだしそうだった。
雨が降った。
これでまた花びらが散る。天をあおいで笑みがこぼれた。
緑の葉が目立ってきて、最後の花びらが散った。
春雷が走る。
あの人を乗せて雲がやってくる。
稲妻が桜の木に落ちる。
閃光をまとったあの人が私に手を伸ばす。
ああ、春が終わる。
私は季節のうつろいと共に次の嵐を待つ。
夏の終わりを、秋の終わりを、冬の終わりを、そしてまた春の終わりを。
季節のはざかいにあの人は稲妻を連れて私に逢いに来る。
「ひぐらしが鳴いたら逢いましょう」
次の約束が私を生かす。
ひぐらしが鳴くまで、長い日を過ごす。
あの人を待ちながら。




