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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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飛行機雲

飛行機雲

旧校舎の屋上への扉の前。

そこが大樹の唯一の居場所だった。学校についたら一番にここに来る。

授業が始まる直前まで階段にうずくまり、授業が終わったらまたここに逃げてくる。

クラスは大樹にとって地獄だった。

大樹の机と椅子は下品な言葉が余すところなく書きなぐられ、通学鞄は切り裂かれ、教科書は燃やされた。授業以外の時間に教室にいれば、必ず取り囲まれ殴られた。

この場所だけが大樹を傷つけなかった。


「なにしてるの?」


見つかった。突然の声に、大樹は反射的に頭をかばって縮こまる。しかし、いくら待っても、殴られも蹴られもしなかった。

恐る恐る目を開けると、階段の下に見知らぬ女子が立っていた。見知らぬ制服、見知らぬ笑顔。

笑顔。

大樹はぽかんと口を開けた。こんなに爽やかな笑顔を見たのはいつ以来だろう。それは確かに大樹に向けられていた。


「なにしてるの?」


もう一度問われ、大樹は震えながら口を開いた。


「にげてる」


「いいね」


その女子はニカッと笑う。


「いい?なにが」


大樹は首をかしげる。


「支配からの逃走。自由への飛躍」


女の子は階段をかけ上がると両腕をぱっと広げた。


「限りなく自由って感じ!!」


そうだ。

僕は自由を求めていたんだ。

女の子が背にした窓の外、飛行機雲が長く伸びていた。

伸びていけ。どこまでも、どこまでも。


大樹は立ち上がり、背伸びをした。


「僕は遠くへ行くよ」


「いいね」


女の子に軽く手を振って大樹は階段を降りた。女の子は窓の外、飛行機雲を見上げた。

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