畳に
畳に
畳に大の字に転がる。
「づぁー。たまらーん」
青いい草の香り。新品の畳表は春の野山のようだ。
香織は両手を頭上にあげると、ごろごろと転がり部屋の端から端まで。
また端から端まで。
なんども往復する。
廊下側はひんやりと、縁側の方はあたたかく。春の一日はのどかに過ぎる。
縁側にネココがやって来て毛繕いを始めた。
香織は縁側の方へ転がり、ネココの背中に触れる。ネココは嫌がり香織の手を甘がみして庭の向こうへ逃げていった。
ネココが座っていた場所に触れると、ほんのりと温かかった。
陽が少しずつ傾き、畳に斜めに西陽がさして、青い畳がオレンジに染まる。
香織の影は長く伸びて部屋の奥まで届く。
香織は得もいわれぬ
心持ちがして小さく丸まった。
夜がくるまでそのままでいた。
祖母から受け継いだこの家を変わらぬ姿で使いたかった。けれど小さな頃に嬉しかった思い出をもう一度味わいたくて、香織は畳替えをした。
後悔はしていない。ただ、なぜか寂しい。
ネココが庭から上がってきて香織の膝に頭を擦り付ける。香織はネココの頭を撫でてやる。祖母の忘れ形見。
撫でているとネココの毛がどんどんとれて毛玉ができた。冬毛から夏毛へはえかわる時期だ。
「毛皮が代わってもネココはネココよね」
香織はよっこらしょと起き上がると伸びをした。
「ネココ、ブラッシングしようか」
ネココは一目散に逃げていった。




