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四月一日
四月一日
全部ウソだったらいいのに。
四月一日、洋子はふられた。
「他に好きな人がいるんだ」
十年も付き合って、別れの言葉はそれだけ。洋子はエイプリルフールのウソなんだと思って笑い飛ばした。けれど彼は洋子に背中を向けて去っていった。
全部ウソだったらいいのに。
四月四日の今日まで、彼からはなんの連絡もない。それどころか洋子が出したメールは届かなかった。
全部、ウソだったら、よかったのに。
洋子は保存していた彼からのメールや二人で撮った写真を何度も何度も見返した。彼はいつも洋子を愛してくれていた。
全部、ウソだったら、よかったのに……。
愛してなんてくれなければよかったのに。
そう思ったら、ふつふつと怒りが沸いてきた。洋子はメールも写真も、すっぱり全消去して、彼のアドレスも彼からもらった指輪もゴミ箱に捨てた。
それから首を捻って少し考え、指輪はゴミ箱から拾い上げた。
ゴールドだ。換金できる。
洋子はカバンに指輪を突っ込むと、部屋を出た。
四月四日、洋子は失恋から立ち直った。




