二者択一
二者択一
「謝ってもらってもしょうがないんですよねえ」
それでも彰一は頭を下げる。
「申し訳ございません!」
得意先の神崎商会に卸すはずの荷が届いていない。悪天候で船が接岸できないせいで。
「いつになるんですか?」
神崎商会の社長は苦い薬を飲み下せないかのように歯ぎしりしている。
「天候の回復を待ってみないとわからなくて……」
「そんなお天気まかせの商売なんてやめてしまいなさいよ!こっちは迷惑だよ!」
それでも彰一は頭を下げる。
今年度は散々だった。原油価格の高騰から輸送費がはねあがり、原材料も値上げされ、しかし売り上げは落ちていた。
年度末の決算は首を括りたくなるような結果だった。そこへ来て、今回の失態。泣きそう、を通り越し、無感動になっていた。
社長の言葉は彰一の頭の上を通りすぎ、どこか遠くへ飛んでいく。ああ、俺も飛んでいけたらなあ。彰一は頭を下げたまま、ぼんやりと考える。
「代わりの商品は?」
「は?」
「代わり!なにかないの!?」
「あ、はい。ご用意します。今回の半額にさせていただきます」
「はあ!?」
社長は目をつり上げる。
「普通はタダでしょ、タダ!当たり前でしょ!!」
彰一はその言葉も素通りさせて、ただ頭を下げる。
今月は散々な月だった。もうどこまでも突き抜けて散々を満喫しようか。それとも社長を殴り付けようか。
腹を据え、にこやかに彰一は頭を上げた。




