キャラキャラ
キャラキャラ
里穂の腕時計はかわいい。
と言えば聞こえはいいが、実質は子供っぽすぎる、と里穂は思っている。それで最近は腕時計をつけていない。
小学生の頃からバス通学だった里穂に亡くなった祖父が買ってくれた時計だった。よくわからないリンゴのようなナマコのようなキャラの絵がついている。
中学入学の時に新しい腕時計が欲しいと両親に頼んだが「おじいちゃんがせっかく買ってくれたのだから……」と買ってもらえなかった。
それからおこづかいを貯めて、高校生になるこの春、腕時計を新調しようと決めていた。
……のだが。
「……キモ」
「キモって言うな!せめてキモかわいいと言え!!」
古びたキャラ時計をごみ箱に捨てようとしたら、時計が話し出したのだ。「捨てないでくれ」と哀願した。
「なんと言われようと、新しい腕時計を買うんだから」
「そんなもの贅沢だ!!あるものを使え!!」
「だいたいなんで腕時計なのに喋ってるのよ」
「魂が宿ったからだ」
「うわ、キモ。魂とか。シューキョー?あぶなーい」
里穂は指先で腕時計を摘まむとごみ箱に放り込んだ。
「こらー。何をする!ツクモガミを粗末にしたらバチが当たるぞ!!」
バチが当たる、という言葉に里穂はぴくりと反応した。そうっとごみ箱をのぞく。
「……おじいちゃん?」
「やっとわかったか。バチアタリモンが」
里穂はごみ箱から腕時計を摘まみあげた。
「幽霊?」
「いや、ちがう。ツクモガミといってな、大事に使い続けたモノには魂が宿るのだ」
「私、大事に使ったつもりはないんだけど……」
「なにを、なにを。毎日毎日、腕につけとったじゃないか。じいちゃんは嬉しかったぞお」
腕時計はおいおいと泣き出した。と言っても盤面のリンゴナマコが身をよじり「おいおい」と言っただけだが。
「でももうつけないから」
「なんでだ!」
「子供っぽすぎるの。高校生には似合わないの」
「時計の本分は時を計ること。それさえできれば十分だ。贅沢は敵だぞ」
里穂は軽くため息をついてみせて、時計を摘まむと机の引き出しに放り込んだ。引き出しの中から腕時計がなにか叫んでいるのが聞こえたが、里穂は無視して新しい腕時計を買いに行った。
「おじいちゃん、見て、新しい腕時計!かわいいでしょ!」
「なんだ!?キャラものじゃないか!子供っぽいじゃないか!」
「これ、流行ってるのよ。今が旬なの」
「そんなものすぐにすたれる!」
「なんだとぉ!僕は人気者だぞ!!すたれない!」
里穂はキョロキョロしたけれど部屋の中には誰もいない。おそるおそる腕時計を見下ろすと、流行りのキャラが腕を振り上げて叫んでいる。
「まだ大事にしてもいないのに、なんで喋るの!?」
「店で大事に大事にされてたんだい!」
「ふん!ちょっとちやほやされただけで図にのったか」
「なにおー!?」
腕時計たちはキイキイとぜんまいが鳴るような声で喧嘩を始めた。
里穂は深いため息をついて、腕時計を摘まむと机の引き出しに放り込んだ。
引き出しの中からキイキイとなにか叫んでいる声がしているようだが、気にしないことにした。
「目覚まし時計まで喋らないわよね……」
そっと横目で見ると、目覚まし時計のウサギのキャラがぴくりと動いたような気がした。




