裏の山の野いちご
裏の山の野いちご
春が来た。
なんて言ってたら桜はすぐに終わって、もうすぐ梅雨になる。
勇人はこの時期が大好きだ。毎日裏の山の竹藪を歩き回る。
下生えに、野いちごが生るのだ。
春先にはやはり竹藪を歩き、小さな白いいちごの花を確認しておく。その位置を覚えておいて、春の終わりに収穫にいく。
ざるを抱えて手当たり次第に野いちごを摘み、ひとつ食べてはひとつざるに入れ、ひとつ食べてはひとつざるに入れていく。
満足するほど食べ終えたら、残りは摘んでジャムにする。勇人は料理はできないが、ジャム作りだけは自信がある。
野いちごのジャムはスーパーで買うイチゴジャムとは大違いだ。
灰汁がたくさんでて、汁気が多く、酸味と独特の野花の香りがする。
ことこととじっくり煮ている間、勇人は野いちごと一緒に採ってきた破竹の根を切っておく。これはばーちゃんが茹でてくれる。
灰汁をとりながら煮詰めていくと、甘ったるいばかりだった香りのなかに、爽やかな風が吹くような香りがたつ。そうしたら出来上がり。
瓶に移して熱いうちに一舐め。
背筋がしびれるような甘さと、野いちごの香り。春の置き土産。
勇人は大事に瓶に蓋をして今年の春の名残にした。




