光
光
くだらない人生だった。
俺は誰からも嫌われ続けることが決まっていたのだろう。産まれたときから、親にさえ見捨てられたのだから。
悪いことはだいたいやりつくした。人を殺さなかったのは、たまたま機会がなかったから、それだけだ。人を愛したこともなければ憎んだこともない人間は殺意なんてもたないものみたいだ。
空が青いな。日差しがまぶしい。
畳の上で死ぬなんて考えたことはないが、まさかアスファルトの上で餓死するとも考えたことはなかったな。
ああ、腹減りすぎると、気持ちよくなるものなんだな。……このまま目をつぶれば……
「おじさん、大丈夫?」
目を開けると、黄色い帽子をかぶった女の子がしゃがみこんで俺を見つめていた。
「……いや、今から死ぬところだ」
「どうして死ぬの?」
「はらがへってな……」
女の子は手提げ鞄から牛乳を取り出すと、俺の口にぽとり、ぽとりと滴をたらす。俺は浅ましく口をぱくぱくと動かし、牛乳を飲み込んだ。
甘い。
天国なんか知らなかったが、きっとここがそうだったんだ。
「おじさん、元気でた?」
女の子はにっこり笑う。
「ああ、ありがとう」
女の子は空になった牛乳パックを手提げ鞄にしまい立ち上がった。
逆行で女の子の顔が見えなくなった。俺はその顔を見続けていたくて手をのばす。
女の子はその手をやわらかく握ってくれた。
ああ、そうか。天使というのはこういうものか。
俺は産まれて初めての暖かい思いを胸に、永遠の眠りに落ちていった。




