夏のおもいで
夏のおもいで
佑都の目が血走っている。
こんな形相の小学三年生は初めて見た。
まあ、こんな形相の小学二年生は去年見たし、
こんな形相の小学一年生は一昨年見た。
つまり、佑都は毎年毎年、性懲りもなく同じことを繰り返すのだ。
明日は始業式。今日は夏休み最後の日。今は午後9時。
私はため息をつきながら、漢字の書き取りを手伝ってやっている。
「ねえぇ、佑都。宿題は自分でやらなきゃ身に付かないのよ?」
「明日から! 明日から、がんばるから、今日だけ手伝って!!」
そのせりふ、去年も一昨年も聞いたんだってば。ため息しかでない。
午後十一時を過ぎたころ、やっと宿題は終わった。
佑都の血走った目は半分、閉じかかっていた。
「あ!」
突然目をかっぴらいて佑都が叫ぶ。
「自由研究やってない!!」
「ああ、ああぁ。しまったわねぇ」
「お母さん、自由研究何やった!? 今からできるの教えて!!」
自由研究だって自分で考えなきゃ意味ないんだけどな……と思いつつも、私は記憶を二十数年前まで遡らせる。
「そうねぇ、砂場で砂のお城を作ったり、時計の仕組みを調べたり、読書感想文書いたりしたわねぇ」
「今からできそうなの!! 難しいのはいいから!!」
せっかく小学生のころの楽しいおもいでにひたっているというのに、佑都は趣をぶったぎるように急かす。
「そうねぇ、あとは、絵を描いたりしたかなぁ」
「絵!! ぼく、絵描く!!」
叫ぶと佑都は机から色鉛筆とクレヨンを取り出した。
スケッチブックを机の上に広げる。
右手に色鉛筆、左手にクレヨンを握ると、画用紙の右端と左端から勢いよく線を引いていく。
色鉛筆の線とクレヨンの線とが出会ったら、そこでお仕舞い。
次の色に持ち変えて同じことを繰り返す。
画用紙の上には赤、青、黄色、色とりどりの線が何本も何本も引かれていく。
「できた!!」
佑都が画材を置いて立ち上がる。それは絵というよりは、線の集まり、ただのラクガキにしか見えない。
「ねえぇ、佑都。それ、なんの絵?」
「夏休みの宿題の絵!!」
「は?」
「やったー! おわったあ!! 」
佑都は立ち上がり、ベッドまで歩いていくとパタンと眠ってしまった。
私は首をひねりながら、佑都のおなかに布団をかけた。
佑都の宿題は無事、提出された。私はやっと肩の荷がおりて、やれやれと首を回す。
佑都の絵は、自由研究コンクールに出され、優秀賞をとった。
「あなたのやっつけ仕事なのに優秀賞もらっちゃったのねぇ」
私が言うと佑都は胸を張り、表彰状を私に見せつけながら
「夏休みの終わりの切羽詰まった感じがすごくよく出てるって褒められたんだよ!!」
という。
なるほどなあ。審査員は絵の中の本質をちゃぁんと見抜くものなんだなあ。
「あ、そうだ! 海野先生がお母さんに渡してって、これ」
かばんから取り出されたのは一枚の表彰状。
『佑都くんのお母さんは漢字の書き取りをがんばりました。がんばりましたで賞を授与します』
そう書いてある。
なるほどなあ。担任の先生は、児童の本質をちゃぁんと見抜くものなんだなあ。
と感心した。