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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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あの家

あの家

昔から人には見えないなにかが見えた。小さい頃はそれが当たり前で、みんな口に出さないだけで見えているんだと思っていた。


祖母の家に住んでいたことがある。

都会のビル郡の中にポツリと取り残された一軒家。日照権なんて言葉がまだない時代。その家は昼日中でも薄暗かった。


「美代子、それと口を利いてはいけない」


ある日、タンスの後ろから伸びてきた手に向かって話しかけていた私に、祖母が言った。


「それらは影に生きているの。連れていかれてしまうよ」


祖母はある日突然、姿を消した。なんの前触れもなく、なにも持たず。

しばらくして、両親は祖母の家を売り払い、田舎に引っ越した。

祖母の家を出る日、玄関先に祖母が立った。

両親は気づかない。私は言いつけ通り祖母と口を利かなかった。祖母は繰り返し繰り返し言った。


「父親が殺した」


私は知らんふりをして祖母の横を通りすぎようとした。


「おまえも死ぬよ」


小さかった私には死というものがよくわからなかった。今ならわかる。

影になった今なら。



私はタンスの影にひそみ、その時を待っている。私のように影を見るものを。そのものが私に話しかけることを。

私は呼びかける。私のかわりに生まれた命に。小さな小さな命に。


「おまえも死ぬよ」


と。

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