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春の夜の闇はあやなし梅の花
春の夜の闇はあやなし梅の花
充は夜の散歩が趣味だ。
ここ最近は、日中の陽射しがやわらいで、夜間の寒さもどことなく厳しさを欠いてきているような気がする。
足の向くままにふらふらと歩いてみる。
昨夜はこちらの道を行ったから、今夜はあちらの道へいってみよう。
気の向くままに曲がってみる。
ふと、どこからか甘い花の香りが漂ってきた。胸いっぱいに香りを堪能する。
そのまましばらく歩くと、一軒の家の庭に大きな梅の木が満開の花をたわわにつけていた。暗夜にゆかしい白梅だった。
香りはいよいよ強く、香をたいたように身に染み付くかと思われた。
充は立ち止まり、梅の木を見上げる。中天に上った月が梅の花を輝かせている。
春だ。
充は背を伸ばして歩き続けた。




