みずうみの
みずうみの
みずうみの上に厚く厚く張った氷に
一筋、裂け目が走りました。
雪が凍りついて真っ白な、しいんとした森の中です。
氷の避けるおとがキキッ、キキッとこだまします。
キキッ、キキッ。
キキッ、キキッ。
少しずつ、少しずつ、裂け目は大きくなり、とうとうみずうみの端から端まで一本の切れ目ができました。
キキッ、キキッ。
キキッ、キキッ。
切れ目のふちの氷から、次第次第に崩れていって、切れ目は細長い穴になります。
その穴から光が射し込んで、小暗かった水底がぽっと明るくなりました。
水の底、大きな大きな貝が寝ているところに日があたり、貝は目を醒ましました。
貝が口をそっと開くと小さな泡がくぷくぷと水面に浮いていきました。
貝は少しずつ少しずつ口を開いていきます。
中には真珠色のサナギがまだ寝ぼけまなこで、うとうとしています。
貝の口が次第に開くと光がサナギのもとまで届きました。
サナギはゆっくりと身をよじると、内側から固い皮をぱりぱりと破いていきます。
透明な足がサナギの皮から突きでて、そこから真っ黒な円らな瞳がのぞきます。
大きな目のついた頭が皮から這い出て、皮はすっかり破れてしまいました。
透明な足、透明な体、真っ黒な瞳。そして真珠色の大きな羽根。
貝の中で真珠色の蝶は羽根を震わせ、足を踏ん張ります。
貝の口が完全に開いてしまうと、陽光を受けた蝶はきらきらと輝きます。
ふさり、羽根を動かし、蝶は水面に向かいます。
ふさり、ふさり、ふさり。
すっかり氷が消えた水面から蝶は飛び立ち、大きく羽根を広げ、空へ旅立ちます。
その羽根から落ちた滴は虹色に光り、森の向こうへ、広い世界へと輝き続けていました。




