しんわ
しんわ
アダムは悩んでいた。
どうしたら彼女の心を動かすことができるのか、と。
彼女は神が作られたアダムの伴侶である。
アダムの肋骨から作り出された彼女がアダムを初めて見て言った言葉は
「……キモ」
だった。
小さな声で言ったのが、せめてもの思いやりと思いたいが、二言目に言ったのが
「半径3m以内に近づかないでくれる。くさいから」
それ以来、彼女は本当にアダムの半径3mから離れて生活している。
アダムは産まれて初めて孤独というものを知った。
一人でいるときはわからなかったことだった。
そしてアダムは人に何かを乞うということを知った。
それまではすべてが与えられていたから、知らなかったのだ。
彼女に半径3m以内に寄る許可を与えてほしかった。
アダムは毎日、3mむこうから、彼女に話しかけた。
「おはよう!!今日も良い天気だね!!」
「はぁ?だから?」
「き、今日はなにをして過ごすのかな?」
「あんたにはカンケーないでしょ。うざい。話しかけんな」
彼女はプイッと遠ざかってしまう。
アダムはガッカリして彼女の後を追うこともできない。
「これこれ、アダムや。なにをそんなに落ち込んでいるのか」
「ああ、神よ。私は彼女に嫌われてしまいました」
「ふむ。しかたないな。反抗期だからな」
「反抗期?」
「アダムは身の親。反抗したくなることもあるだろう」
「では、私はどうすれば?」
「名前をつけたか?」
「あ、まだでした」
「さっさとつけなさい。そしてきちんと名前で呼びなさい。愛情はそこから始まるのだから」
アダムは神に言われた通りにした。
女をイブと呼び、女はそれに答えた。
「イブ?だっさい名前」
アダムはがくりと肩をおとした。
「……アリガト」
「え?」
「な、なんでもないよ!ちょっと……2mまでなら……チカヅイテイイヨ」
イブがぼそぼそと呟いた声はアダムには聞こえなかったが、彼女が顔を真っ赤にしている姿を目にし、アダムは生涯、彼女を守ろうと誓った。
その後、二人が手を取り合うまで、400日かかったという。




