魔法瓶
魔法瓶
瓶を、買ってしまった。
オークションで。
入札額は一円。
それで買えてしまった。
私は、送料プラス一円で、この瓶を手にいれた。
手のひらに収まってしまうような小さな瓶。
透き通った青。
空のような青。
試験管のようにまっすぐで、コルクの蓋で閉めてある。
中には、なにか液体が入っていた。
オークションの出品情報には、液体のことは書いていなかったし、写真でも、たしか空き瓶だったような気がする。
……たぶん。
これは開けても大丈夫なんだろうか。
毒性のある科学薬品ではないのだろうか。
試験管のような形状が不安をあおる。
あるいは開けたら白い煙がわきだして、老人になってしまうのではないだろうか。
手のひらの上で瓶を転がす。
液体がちゃぷちゃぷと揺れる。
水よりは粘性があるようなとろりとした動きで、海を思わせる。
繰り返し繰り返し瓶を揺すっていると、なんだか潮騒が聞こえるようで、私はうっとりと目をつぶった。
水音はちゃぷちゃぷと舟端をあらう波のようで。
開けてみようか。
私は目を開け、コルクにそっと手をかけた。
しかし、いや、と思いとどまる。
瓶を揺らす。
その液体は神経を侵す毒のように
はるかへいざなう海のように
私の心を掻き乱す。
今すこし、このざわめきを楽しみたくて、私はそっと瓶を握りしめた。




