るーーーず
るーーーず
ぴん・ぽーん
というなんともふるめかしい呼び鈴を鳴らす。
「はーい」
明るい声で返事がある。
俺は花束とケーキの箱を背中にかくす。
「はいはーい」
がちゃりと開いたドアに向かい、両手のプレゼントをさしだそうとして
「あ、まちがえました」
俺の口から出たのはそんな言葉だった。
ドアの内側にいたのは、大きな猫だったから。
俺と身長は変わらないくらい。
二足歩行で、前足で器用にドアノブをつかんでいる。ちなみに、三毛だ。
「すみません、まちがえました」
再度あやまり、立ち去ろうとした俺を猫が呼び止める。
「涼ちゃん、あたし、あたし!!」
そう言っておれの肘に猫パンチを食らわせる。
「……人違いでしょう、おれには猫の知り合いはいない」
「や、だから、猫じゃないって!!」
「どこからどう見ても三毛猫ですよね。太った三毛猫」
「ふとっ……。ひどい!このおなかはウレタンだもん!!」
「で?この暑いのに、お前はなんでウレタンを着込んでるんだ?」
「えっと……。新しいルームウェア?」
おれが無言で歩き去ろうとすると、三毛猫は再びおれの肘に猫パンチをくれた。
「脱げなくなっちゃったのぉ!!」
「そうだろうな」
「わかってたなら、早く助けてよ!」
「もしかしたら新しい趣味かと思ったからな」
それから、頭がつかえてとれないという着ぐるみの頭部を引っ張って脱がせてやり
「いたたたた、手加減してよ!」
着ぐるみの手では開けられないジッパーを開けてやり
「うっわ、あせくっさ」
「ひどい!乙女にむかって!!」
なんとか素顔が見えた頃には、ケーキの生クリームはすっかり溶けてしまっていた。
「猫、これ食え。残すなよ」
汗だくの人(自称・乙女)に変身した猫は、ケーキの箱を見て目を輝かせた。
「わあ、サプライズバースデイだ!!」
とりあえずサプライズは成功ということで良さそうだ。
驚いたのはおれだけどな。