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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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10年後の君へ

10年後の君へ

「ハロー、ハロー!

10年後の僕!!


君は今なにをしてるだろう。

元気にやっているかい?

景気はどうだい?


こちらはずいぶんと暑くてスコールの毎日だよ。覚えているかな?


君は今でもサッカーが好きかい?下手くそなキックでゴールと反対へボールを飛ばしてるのかな?


僕は日々、テレビをつけてはサッカーの試合のビデオを見ている。

本当は生で見たいけど、いろいろ大変だからね。


先生が言うには、手術が成功するかは五分五分だそうだよ。


あ!

こんなこと、君ならよく知ってるよね!!

どうだい? 手術は成功したかい?

足は切断されずにすんだかい?



もし、君の足がもう無いのなら、この手紙は君を悲しくさせるかもしれない。

だけど、僕は書かずにはいられないんだ。不安で不安で、ぺしゃんこに潰れちまいそうなんだ。



こんな気持ち、覚えているのかな。それとも笑って忘れちまったかな。


君が覚えていても忘れてしまっていてもいい。

どうか、強く生きてほしい。

前を向いて、胸を張って!!

それだけが今の僕の願いだよ。


じゃあ、そろそろ診察室へ行く時間だ。

寂しいけれど、このあたりで筆をおくよ。


元気で。僕。 敬具」




受け取った封書はちょうど10年前の今日の日付。

俺は、こんな手紙を書いていたことなんて、まったく覚えていなかった。

郵便受けの中に俺の筆跡の俺宛の封筒を見つけた時は正直、ギョッとした。


けれど封を切り、手紙を読み進めるうちに俺はあのころの気持ちを思い出した。まだ自分のことを「僕」と読んでいた頃を。


骨肉腫のにぶい痛み、走れなくなることへの恐怖。足を切断するかどうかの瀬戸際の悩み。


この手紙を書いたすぐあとに、主治医が待つ診察室へ歩いていき、俺は答えを告げたんだ。

切断か、転移を恐れながらの部分切除か。


「あなた、どうしたの?」


手紙を握って、ぼうっとしていたらしい。

妻が怪訝そうな顔でこちらを見ている。


「なつかしい人から手紙をもらったんだよ」


「あら。なんて書いてあるの?」


俺は手紙をたたんで封筒にしまう。


「がんばれ、だってさ」


にこにこと妻は笑う。俺は胸を張り、妻のとなりに立った。

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