168/888
女を磨く
女を磨く
洋介は夏帆の指が好きだった。
白く細く長くなめらかで、波打ち際にうち寄せたまっ白な貝を思わせた。
夏帆は自分の爪が好きだった。桜色に輝き、形よく整えられ月を思わせる爪が好きだった。
夏帆は爪を切らない。切ると形が崩れるから。やすりで丁寧に少しずつ少しずつ削っていく。洋介はその姿を見るのが好きだった。
夏帆が出ていくと言った時、洋介は必死になって止めた。けれど夏帆の決意は固く、夏帆は洋介の手を振り切った。
その時、夏帆の美しい爪が洋介の手にあたり折れた。洋介の手には爪に引っかかれた傷ができたが、そんなことは二人にとってどうでもよかった。二人は折れた爪を拾い上げ、なんとか夏帆の指に戻せないものかと苦心した。しかしそんな事ができるわけもなく。
夏帆は泣いた。こんなことなら出ていくなんて言わなければよかったといって泣いた。
洋介は泣いた。こんなことなら君を行かせればよかったといって泣いた。
二人は同じ痛みを抱えて、いつまでも泣き続けた。




