禁止標識の日々
禁止標識の日々
わが家の前の道路は一方通行だ。
道路の一方は大きな幹線道路へ続き、一方は田んぼ道へと続く。
田んぼ道の方から幹線道路へは出られるが、幹線道路から田んぼ道へは抜けられない。
私は自動車通勤なのだが、向かうのは田んぼ道の先、田舎商事株式会社だ。
毎朝毎朝、行きたい方向とは逆方向に車を発進させる。
正直、ストレスだ。
ある朝、思いたって、一方通行路をバックで田んぼの方へと進んでみた。
途中やってくる対向車もなければ警察の取り締まりもない。
少しどきどきしたが、快適な通勤だった。
翌日から一方通行路をバックで逆走する日々が始まった。
一日目も二日目も十日めも一カ月過ぎても対向してくる車両などおらず、私は毎朝快適に会社へと運転した。
ある雨の日、いつも通り田んぼ道へ向かって車を逆走させていると、急にガクン、と車がかしいだ。
あわてて降りて車両後方を確認する。
すると、私の車のタイヤはぬかるみにはまり、ずぶずぶと沈んでいた。
運転席に戻ってアクセルを踏んでも、前にも後ろにも進めない。
タイヤはずぶずぶとぬかるみに取られたまま。
結局レッカーを呼んで車を引き揚げてもらうことにした。
レッカー車は一方通行を逆走したりなどせずに、きちんと田んぼ道を通ってきた。
「ああ。やっぱり。逆走してきたんですね」
「やっぱりって?」
「毎年梅雨時には一台くらいはハマるんですよ。このぬかるみ、前進なら越えられるけど、バックだとハマるんです。4WDか、一方通行を守っていれば問題ないんですけどね」
私は少し顔を赤らめ、下を向いた。




