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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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酔いもせず

酔いもせず

仕事中、ふと顔をあげ、ガラス越しに見た事務所の中に、

聡子は、自分の理想の男性が服を着て歩いている姿を目撃した。


ぼーっと、見つめていると、その男性は、一通りの挨拶周りを終えたようで、事務所から出て行った。

作業を止めていたことに気づき、急ぎ、仕事に戻る。


聡子は工場で、電気機械組み立ての仕事をしている。

週休二日。福利厚生ばっちり。残業ほとんどなし。

申し分ない職場だった。


今までは。


聡子は、事務所内で事務の仕事をしていれば、今の男性と知り合えたものを…と、くやしく思っていた。


4月の異動で、上司がごっそりと入れ替えられた。

大会社特有の、仕事の実績を省みない、異動。実務に長けた上司がいなくなることに、同僚は不安を隠しきれない。


しかし、聡子はひとり、うきうきしていた。

新しく赴任する上司の一人、島野課長が、聡子の理想の君だったから。


着任から2ヶ月、上司の仕事ぶりも、聡子の理想どおりで好もしい。

課長は一生懸命に励むが、どこか抜けていてミスもする。しかし、絞めるべきところはきちんと絞める。が、笑顔を忘れない。

聡子は、毎日、課長の顔を見ることができるだけでウキウキした。


しかし、事件が起こった。

というより。聡子が起こした。


新入社員の歓迎会の二次会。

上司と新入社員、出世頭の同僚たちは、スナックへ。

バイトとパートと、出世を嫌い契約社員に甘んじているものはカラオケボックスへ。

別れてしまったのだ。

聡子は、カラオケボックスへ連行された。

課長は、スナックへ。


同僚が楽しそうにカラオケを歌っている間中、聡子はぶつぶつ文句を言いっぱなしだった。課長と一緒に行きたかったのに。

それをずっと聞いていた同僚が、聡子の携帯を奪い、電話番号を入力する。


「そんなに言うなら、かけたらいいじゃないですか。課長をここに呼べばいい」


そういう同僚から携帯を受け取り、聡子は逡巡した。

酔いに任せて、流されてみようか。



しばし、考え、聡子は携帯の番号を消した。

「大丈夫。仕事でがんばって、かまってもらうから。ありがとね」

そういうと、同僚は肩をすくめた。


「あれ。つまんない。現実って、こんなもんですかね」


そう、こんなもんよ。と、聡子は、自分自身に言い聞かせた。

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