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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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竜と姫君 5

竜と姫君 5

「と、トーリン殿……。これは、この赤い生物はいったい……?」


 焚き火の火の番をしていたマーガレット姫は、猟から帰った魔術師が抱えてきた獲物を見て、頬をひきつらせた。


「おや、姫はこれを見たのは初めてですか? これは赤スライム。美味しいですよ」


「今、なんと!?」


「美味しいですよ?」


「いえ、その前」


「赤スライム?」


「いえ、その前」


「初めて?」


「ああ! もう、まどろっこしい! 私のことを姫と呼びませんでしたか!?」


 魔術師は首をひねる。


「呼びましたが……それがなにか?」


「私が姫だと気づいていたのですか!?」


「はい」


「いつから!?」


「初めから」


 姫は深いため息をついた。


「……ばれていないと思っていたのに」


「王宮の謁見の間に肖像画がありましたから」


「あれは10歳の時の絵です」


「何年たっても骨格は変わりませんからね」


「骨格……」


「あの肖像画を描いた絵師の腕は見事ですね。骨格、肌の質感、髪の一本まで完璧でした」


「気づいていたなら、なぜ供にしていただけたのですか?」


 魔術師は、きょとんと首をかしげた。


「行きたそうだったからですよ」


「え?」


「竜退治に、自ら行きたかったのでしょう?」


 姫はぽかんと口を開けた。

 今まで、姫が何かをしたいと言っても、反対ばかりされてきた。理由は「姫だから」。そんな曖昧な理由で黙るようなおとなしい姫ではなかった。

 しかしそれでも、だからこそ。無理を通すよりも、自分の意思を尊重してもらえた、その喜びは大きかった。


「……うれしいです」


 魔術師はにっこりと笑う。


「では、食事にしましょうか。赤スライムは刺身が絶品なんですよ。すぐにさばきますからね」


 にこにこ笑う魔術師の手の中、じたばた暴れる赤スライムを横目で見て、姫は再び頬をひきつらせた。


(これを食べたくないと言ったら、その要望はとおるだろうか……)


 煩悶したが、姫の腹は盛大な音をたてたため、今回は黙っておくことにした。

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