織姫
織姫
「う〜〜〜〜〜〜」
朝、食卓で、姉がうなっていた。
「どうした、姉ちゃん、便秘か?」
「食卓で尾篭な話はやめれ〜〜〜!快便だけど〜〜。卒論が早くも難航中〜〜」
姉は、大学で染色を勉強している。
今年度、卒業予定。なのだが
「早すぎない?まだ6月始まったばっかだよ」
「だけど〜。当てにしてた奄美の織物やさんが、火事で、織機がぜんぶ燃えたって〜」
「えーーー!! 大変じゃん!!」
「怪我人も無くて消火できたそうなんだけど…日本に一つだけの水平機が〜〜〜燃えた〜」
水平機とは、織機の一種で、壁のように垂直に立てられた機に縦糸を垂らして織っていくもので、世界最古の織機の型と言われているそうで、現存数は少ないらしい。
姉の専門は染色だが、染めた糸で織物を作るところまでを、卒業制作に予定しており、水平機も世界中を取材して、論文はすでに仕上がっている。
今から新しいことを研究したのでは、やっつけ仕事になってしまう。
「私の織機〜〜〜〜〜」
うなり続ける姉を不憫に思い見ていたが、ふと、思いついた。
「姉ちゃん、織機から作っちゃえばいいんじゃない?」
「え?」
「基本、木でアーチを作っちゃえばいいんだろ?写真もあるなら、できるんじゃね?」
姉はぽかんとした顔をする。
「あんた…かしこいわね」
というような経緯で、翌休日、織機を作るために木材や釘、電動ドリルなどを仕入れた。
どうせなら、原始的な方法で編みたいと言う姉の希望により、ドアの外枠のような、棒、3本くっつけただけの木枠を3つと、それを固定する横木を釘で止めただけで、あっという間に織機は出来上がった。
「…できちゃったわね」
「できましたな」
「あ!!! しまった!!!」
「え、なに?なにか間違った?」
「…せっかくだから、製作過程、写真に取ればよかった〜〜」
「なんだ。材料、まだあるから、姉ちゃん一人でもう一回、作れば?撮ってやるよ」
「そう?じゃあ、お願い」
とは言ったが、姉が日曜大工に全く才能がないことが露呈した。
木材は同じ長さに切れないわ、釘は垂直に打てないわ。
これだけ不器用で、よくもまあ、織物なんてできるもんだ、好きこそものの上手なれ。
とまれ、製作してるっぽい写真と、完成品の写真はできた。
デジカメで画像を確認して、姉がニコニコしている。
「わ〜。災難からひょうたんだ〜」
「いやいや、それを言うなら、ひょうたんから駒」
「ほんと、たすかったよ〜。これで製作できるよ〜。あ、そっか。どうしよう」
「え、なに?」
「これ、どうやって家に入れる?」
「あ…」
しまった。
高さ2メートル、幅1メートルの木枠を3つくくりつけた結構巨大なもの…とても、ドアから入らない。
「…いっそ、これの上に小屋を作るか」
「おお! かしこいね〜〜〜」
日曜大工のはずが、にわかに大工仕事に変わって行きつつあるのであった。




