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大凶
大凶
大凶
何事も駄目になる。希望はない。
仕事 倒産の危機
縁談 破談する
待ち人 早く忘れよ
おみくじをそこまで読んで目をあげた。
待ち合わせ一時間過ぎてもアイツはやってこない。
アタシはひいたばかりのおみくじを縦に細く千切っていく。
そうして何本にも別れたおみくじを一本一本丁寧に梅の枝に結んでいく。
梅の枝に花が一輪、二輪咲いている。
未だ香りはしないけれど。
「春はくるんだなあ」
なんとなく口に出してみた。
待ち人は来ないって知っていた。うらなう必要もないくらいしっかり知っていた。
それでも、待ってみたかったんだ。けれど
「季節はかわるんだなあ」
梅の枝に結んだ紙切れがふいと見ると花が風に揺れているように見えなくもない。
「アタシは変われるかなあ」
おみくじに和歌が書いてある。
『谷深み春の光のおそければ 雪につつめる鴬の声』
風がさらりと吹いた。なんだか暖かくなった。
「春はもうすぐそこ、かな?」
アタシはおみくじの最後の切れ端をポケットに入れて歩き出した。
どこへ行くあてもない。けれど、どこへでも行ける。そうおもった。