キラキラ
キラキラ
あの日、この場所に私はずっと立っていた。
約束は果たされず、私の手には小さな石がついた指輪だけが残された。
指輪はイルミネーションを反射してキラキラ光っていた。
私の目にはその光はまぶしすぎて。
指輪をはずして、木の根元にそっと置いた。
「落としましたよ」
立ち去ろうとした私の背中に声がかかる。
振り返ると、品の良いコートを着た老夫人が私の指輪を手の平に乗せ、微笑んでいた。
「いいんです、それはもういらないの」
老夫人はにこにこと笑顔を崩さず、私の手を取り、指輪を握らせた。
「悲しいことがあったんですね。けれど、指輪に罪は無いわ。どうか一緒に連れていってあげて下さい」
「でも……」
言葉を継ごうとしたけれど、つんと鼻の奥に痛みが走って、イルミネーションも老夫人の姿もぼんやりとぼやけてしまった。
「アメジストの石言葉は心の平穏。きっとあなたの気持ちを落ち着かせてくれるわ」
「石言葉……」
「そう。一つ一つの石には一つ一つの言葉があるの。石のきらめきは人の心のきらめき。持っている人に寄りそってくれるものよ」
私は手の平に乗せた指輪をしみじみと眺めた。
もうずっと私の指に寄りそい続けて、指の一部みたいに思っていた。
「色々な想い出がその輝きの中につまっているでしょう。楽しかったことも嬉しかったことも。そして辛いことも。でもそれはすべてあなたの大切な経験。それを捨ててしまわないで」
私の目からぽとりと涙がこぼれた。涙はイルミネーションを反射してキラキラと光った。私は指輪を指に嵌め、老夫人に別れを告げて、歩き出す。
今は辛いけれど、確かに私の大切な時間はこの指輪と共にあった。これからも、大切な時間を一緒に過ごしていけるのかな。この気持ちもいつか想い出になれるのかな。
今は分からないけれど。アメジストは静かにキラキラと輝く。私の背中を押すように。私の時間を煌めかせるように。




