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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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にゃあ!

にゃあ!


「猫ひろしってさ、あざとくない?」


テレビを見ていた夫が言う。


「あざといとは?」


「思慮深さに欠けるが、小利口であるさま。浅はかでこざかしい。抜け目がなく貪欲()であるさま。あくどい。」


「いやいやいやいや、言葉の意味ではなくてね。どういうところが?」


「オリンピック出場のために外国籍取るとかさ、結局、売れない芸人の話題作りじゃないか。そんな不純な動機でオリンピック出てさ、ほかのマラソン選手はたまらんだろ」


由香は首を傾げる。


「そうかなあ?動機が何でも、一生懸命やるのは良いことじゃないかかなあ」


夫はテレビを消し、由香に詰め寄る。

議論好きだなあ。と、内心、由香はちょっと呆れる。


「もし、由香が、マラソン選手で、日本で争って、惜しくもオリンピック出場を逃したとしたら、腹立たしくないか?」


「そりゃあ、オリンピックに出れるのはうらやましいよ」


「だろ?」


夫は、自信満々、という顔をする。


「けど、うらやましいからと言って、外国籍は取得しないし、何より、オリンピックで戦いたいのは、猫ひろしじゃないし」


夫の顔色が少し曇る。


「え、じゃ、誰と戦いたいわけ?」


「自分自身。自分を奮い立たせて、自己新記録、日本新記録、世界新記録を出す。

マラソンて、そういう競技じゃない?」


夫の眉間に縦線が寄る。


「まあ、そうかな?」


「それに、猫ひろしが頑張ることで、えと、どこだっけ?ガーナ?ケニア?その国でもマラソンが盛んになるかも知れないじゃない?」


夫の口の端がへの字に曲がる。


「それは、そうだな」


「それに何より」


畳み掛ける由香に、夫の顔が嫌そうに歪む。


「え…まだ、あるの?」


由香は人差し指を、ぴ!と立てて言う。


「参加することに意味がある!でしょ?」


「お説ごもっとも」


夫は、すっかり拗ねてしまった。

テレビをつけて、ゴロリと寝転ぶ。

由香は夫の背中を見ながら、ほくそ笑む。

議論好きなんだけど、優し過ぎて、夫はいつも、由香の論旨を認めてくれる。

その優しさが嬉しくて、由香は優しく言う。


「今夜は、トンカツにしようか?」


「…カツ丼がいい」


もしかしたら、由香が勝つたび、夫の好物を作ってやるため、味を占めて負けてるのかな?

などと思いながらも、いそいそと豚肉を買いに行くのだった。

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