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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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竜と姫君 4

竜と姫君4

「竜の弱点はただ一つ、その舌なんだそうですよ」


 急な斜面をひょいひょいと登りながら、トーリンは息もきらさずに喋る。

 マーガレット姫は軽鎧と言えど鎧を身につけている分、ローブ姿の魔術師よりは苦を背負っている。とはいえ、毎日訓練に明け暮れていた姫としては、魔術師に体力で後れをとるのは少々プライドが傷つく。荒い息をかくすよう、一度深く呼吸をしてから相槌をうつ。


「舌ですか」


「はい。それ以外は体中鱗に覆われ剣も魔法も弾き返すらしいです」


「それは……。厄介ですね」


「ええ」


 大きく張り出した一かかえある木の根をヒョイと飛び越えながら魔術師は軽い返事を返す。

 姫は木の根をえっちらおっちら乗り越える。


「ですから、何かとんでもなくまずいものを食べさせたらいいのではないかと思いましてね」


「まずいものというと?」


「薬草なんかいいかな、と思いまして。こうして山に登ってるわけなんですけど」


「ああ、そうだったんですか」


 魔術師はぴたりと足を止めると、姫の方をふりむき、はにかんだ笑顔を浮かべた。


「道に迷っちゃいました」


 姫はくらりと眩暈を覚えた。





「兵士長殿お、旧街道って、これじゃあただの獣道ですよお」


 ヒースが情けない声で泣きごとを言う。たしかに彼らが通っているのは鹿でも通ったのかと思われるくらい細い獣道で、両側は高い木々が覆いかぶさるように生い茂っている。

 兵士長はヒースの泣きごとをまるっと無視して先頭を歩き続けた。アデライールも知らぬ素振りで隊列を乱さない。仕方なくカインが溜め息をつきながら説明してやった。


「旧街道は神々の御代の遺跡だ。人が通るために作ったものじゃない。上を見ろ」


 ヒースが見上げると、空に金色の帯が浮かんでいて、隊列の進む方向に長く伸びていた。


「あの光が神々の街道だ。魔術の源でもある。魔術師ならば光に沿って歩くのが自然だ」


「けど姫様も一緒なんだぜ? 女の子連れて歩ける道じゃないだろ」


「……あの姫様の身体能力を見ておきながら、なんでそんな事が言えるのか全く理解できない」


「二人とも、口を開くと体力を消耗する。黙れ」


 アデライールの冷たい声に、二人は口をつぐみ黙々と歩き出した。



 木々が切れ、広く開けた場所で小休止を取ることになった。

 干し肉と水で簡単な食事を摂る。これにもまたヒースは文句をつける。


「ああ、街道を歩いていたらせめて温かいもんだけでも食えたのに……」


「温かいものが食べたいなら、獣を仕留めてくるんだな。火は起こしてやる」


「ほんとうですか、兵士長どの! よし、カイン、アデライール、いくぞ!」


 アデライールは常のごとくヒースの言葉など聞いてはおらず、ヒースはそんなことお構いなしでカインとアデライールの腕を引っ張った。


「ええ? 本気か、ヒース」


 カインは引かれるままについて行き、アデライールは腕をもぎ離した。


「本気だとも! 俺は弓は大得意だからな! ほら行くぞ!」


 常には無い軽快な動きでヒースは森の奥へ入っていく。カインが後を追って足を踏み出すと、


「うわああわわわ!」


 ヒースの甲高い悲鳴が聞こえた。

 カインが駆けだし、兵士長とアデライールも後に続く。草の中にヒースが尻餅をついて一点を見つめている。その視線を追うと、そこには焼け焦げた人の死体らしきものが転がっていた。


「く、く、首が切り落とされているであります!」


 ヒースが珍妙な声で叫ぶ。


「おちつけ、ヒース。カイン、あたりに人影が無いか調べろ。アデライール、首が落ちていないか探せ」


 兵士長は指示を出すと、死体に近づきそっと触れた。


「兵士長どの! 火傷するでありますよ!」


「おちつけと言っている、ヒース。すでに冷えて炭化している。燃やされたのはずいぶん前だろう。……うん? これは」


 兵士長は死体の胸のあたりから一本の骨を取り上げた。


「アデライール、ごくろう。首はない。これは噂の首なし騎士のようだ」


「兵士長どの、首なし騎士だとどうしてわかるでありますか」


 兵士長はちらりと冷ややかな目でヒースを見やり溜め息をついた。


「竜骨があった」


「りゅうこつ?」


 アデライールが横から口を挟む。


「魔物の心臓だ。お前、座学の時間寝ていただろう」


 ヒースが「寝てない」だの「聞き逃しただけ」だのと喚いているところにカインが戻ってきた。


「人のものらしい足跡がありました。二人分。一人は軍靴です。おそらく姫様のものだと思われます」


「よし。その足跡を追う。ヒース、狩りは中止だ」


「そ、そんな……。これ以上険しいところを通ったら、熊にも会いかねないであります」


「その時はお前が狩れ」


「そ、そんな……」


 うだうだと言いながらも、一行は森の奥へ向かっていった。

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