さよならの形
さよならの形
美保が出ていってから三日。
帰っても誰もいなくて、部屋のなか、半分だけががらんとしている。
「あなたとは結婚できない」
言われた言葉はわかるけど、その理由は聞けないまま。
どうせ俺の寝相が悪いとか、くだらないことなんだろう。
美保は見栄をはりたがる女だ。
人よりいい服を着て、人よりいいものを食べて、人よりいい男を捕まえて。
美保に選ばれたということは、俺も男として一端のものだということだろう。
そんな保障なんかなんの意味もないけれど。
俺が部屋のなかをジャージで歩くと美保は金切り声をあげた。部屋にいるときでもそれなりの格好をしていないといけないと叫んだ。
俺がカップ麺を食べても、第3のビールを飲んでも金切り声。
正直、うっとうしかった。
部屋のなか西日が差して、影が黒々と床に沈む。俺の体も同じように沈みそうだ。
なんとか踏ん張って影から足をもぎ離し、部屋の奥に進む。
美保の荷物が置いてあった空のシェルフにそばにあった本を乗せる。
そうやって美保がいた隙間を別のもので埋めていく。
チェストに鞄類を詰め込もうと引き出しを開けると、一枚のメモ用紙が入っていた。
そこには美保の几帳面すぎる筋ばった文字が並んでいた。
『あなたとなら貧乏してもいいや、って思ってしまった。
だから、さよなら』
他人にはわからないだろうメモ。けれど俺は美保らしい、と納得してしまった。
部屋のなか、西日が差して影は長く黒々と伸びる。
俺はメモ用紙を元に戻し、引き出しを閉めた。




