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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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親の顔が見たい

親の顔が見たい

「か~わ~い~い!!」


 ペットショップのウィンドウをのぞいた由香が叫ぶ。夫は両手の人差し指を耳の穴に突っ込んで、聞こえないフリをする。


「か~わい~い! ね~ね~、子猫買って、買って~。家で飼おうよ~」


 由香は夫の腕をつかみ、ぶんぶんと左右に振る。それでも夫は指を耳の穴から離さない。由香はぷうっとふくれて、そっぽを向いた。


「もう!! 子猫かわいいのに! なんで嫌うかな」


「いや、小さい頃にさ、鍋島の怪って時代劇をテレビで見たんだよ。それがトラウマになってて……」


「あー!! やっぱり聞いてたんじゃない!! 子猫買って、買ってー!!」


 再び由香は夫の腕をぶんぶんと振る。根負けして、夫は耳から指を離す。


「あー、もう。わかった。この世で一番可愛い赤ちゃんなら、買ってやる」


「え、この世で一番?」


「そうだ。中途半端な可愛さじゃダメだぞ。世界で一番! だ!」


「わ、わかった……。探してみる」


 由香は店に入っていくつもあるガラスケースを端から端まで見て回った。

 どの子も可愛い。

 子犬も子猫も、頬ずりしたくなるくらい、可愛い。しかし、この世で一番かと言われると「せかいいちだ!」と断言できる根拠は見つからなかった。

 悄然として、由香は夫のもとに戻ってきた。


「どう? 世界一は見つかった?」


「ううん、見つからなかった」


 由香は素直に認め、二人は帰途についた。

 帰りの車の中で、由香は思い出したようにぶーぶー言い出した。


「でもさ、世界一可愛い、なんて飼う前から決められないよ。一緒に生活しだして、初めて可愛く思えるものじゃない?」


「いいや、そんなことないぞ。目が合った瞬間、悩殺されるほど可愛い赤ちゃんがいる」


「えー。それ、何の赤ちゃん?」


「オレと由香の赤ちゃん」


 車内にしんとした空気が漂う。由香は夫と目を合わせない。


「よし! じゃあ、由香のリクエストにお答えして、世界一可愛い赤ちゃんを我が家にお迎えしよう!」


「え、それって……?」


「そうと決まれば、さっさと家に帰るぞ!」


「えええええ! まだ昼過ぎだよお!?」


 騒ぐ由香をしり目に、夫は勢いよくアクセルを踏み込んだ。

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