携帯依存症
携帯依存症
終業のベルが鳴るやいなや、美和子は「お疲れ様でした!」と言いながら立ち上がり、同僚の返事も聞こえぬうちにドアを閉める。
階段を駆け登り、ロッカーへ走っていく。
ロッカーの扉をあけると、すぐ手を伸ばせる位置にケータイを置いている。
ケータイはピカピカと光って、メールを受信していることを知らせる。
急いでケータイを開き、メールを確認する。
「……えー。広告ばっか……」
美和子はガックリと肩を落とす。
しばらくうなだれたまま、未練がましく、何度かメールを受信をしなおす。
しかし、何度確認しても、未受信のメールはなかった。
「はあ」
ため息をついて、帰り仕度を始める。
のそのそ制服を脱いでいる時になって、やっと同僚が上がってきた。
「あれ〜野田さん、まだいたんだ? 急いでたから、とっくに帰ったかと思ってた」
「うん、ちょっと、メール見たかっただけ……」
美和子は鳴ってもいない携帯を手に取り画面を見てロッカーに戻す。
「なになに? 彼氏からのメール待ち?」
「いや……そんなの待ってないし」
美和子は鳴ってもいない携帯を手に取り画面を見てロッカーに戻す。
「そんなのって、ちょっとヒドいね〜。愛が無いぞ、愛が」
「そうだね……」
美和子は鳴ってもいない携帯を手に取り画面を見てロッカーに戻す。
「なんか、暗いよ? 悪い知らせ?」
「ううん、来てなかったの、待ってたメール。あ〜あ」
ため息をつく美和子のロッカーの中、ケータイが鳴る。グリーンスリーブス。メール着信音だ。
美和子はさっと手を伸ばし、ケータイを開く。
「きゃああああ!! やったあ〜!!」
「え、なになになに? 待ってたメール?」
「そう! 取れたの、アリーナ席!! やった〜〜〜!!」
「え、なに、コンサート?」
「そう!! スガシカオ! ファンクラブ先行抽選に当たったの〜〜〜!! うれしい〜どうしよ〜〜」
ケータイを握りしめ、クルクル回る美和子を、同僚はほほえましく眺めた。
「世の中には色んなメールがあるもんだねぇ」
感嘆の声は美和子には聞こえていないようだった。




