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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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狐の嫁入り

狐の嫁入り

「なんで、雨がふる〜?」


とつぜん降りだした雨に、近くの店の軒先に駆け込んで、真理は空にむかって文句を言う。


「一張羅が〜〜」


かなり強い雨脚に、スーツの下のワイシャツまでびしょ濡れだ。

カバンからハンカチを取り出してはみたが、そればかりの布ではとても拭けない、と諦め、せめてぶるぶると肩を揺らして、水滴を落とす。


ふと、振り返ったウィンドウには、可愛らしいワンピースがかけられていた。


「か、かわいい〜〜〜」


可愛いものに目が無い真理は、ふらふらと店に入る。


「いらっしゃいませ〜。なにか、お探しですか?」


「あ、あの、あそこのワンピース……」


「あ、あれですね〜、今日、入荷したばかりなんですよ〜」


「あの、試着……いいですか?」


「は?」


店員が、ずぶぬれの真理の頭からつま先まで素早く視線を走らせる。


「えっと……やっぱり、だめ……?」


「いえいえいえいえいえ〜。どうぞ〜、今、おろしますから〜」


一瞬で営業スマイルに戻った店員が、ワンピースをウィンドウから下ろして、真理を試着室へ案内する。


「これ、どうぞ〜」


にっこり笑いながら、タオルまで貸してくれる。


「あ、ありがとうございます!」


真理はペコリと頭を下げ、ありがたくタオルを受け取る。

手早く頭と手先を拭き、濡れネズミなスーツを丸めて隅のほうに置く。

フリルたっぷりのワンピースを着て、鏡に向かう。


「わー。かわいいー」


カバンから化粧ポーチを取り出し、ササっと化粧もしてしまう。

ワンピースの雰囲気に合わせ、明るめのシャドウとチークにしてみた。リップはやめて、グロスだけつける。

うん、初夏っぽい。


「お客様〜、いかがですか?」


店員の声に、カーテンを開ける。


「!?!?!?!?」


狐に化かされたような顔をする店員に、真理はにっこりと微笑みかける。


「これ、いただきます」



ワンピースに合わせてハイヒールも買い、着ていたスーツとネクタイは袋に入れてもらった。

店を出ると、雨はすっかりあがっていた。通り雨だったようだ。


「今日は、直帰にしちゃお」


真理は携帯を取り出すと、勤務している保険会社に連絡してから、夜の仕事先であるニューハーフクラブに向かった。

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