りあむ
りあむ
「お義母さん、ほんとうに、神楽舞、やめてしまうんですか?」
律子の問いに、義母、セツは伏し目がちにうなずく。
「あんたには、まあ、必死になっておぼえてもろうて悪かったとおもうてます。…けどなあ。アメリカさんが、神社を統一して、古いおまつりは、したらあかん、て言うてるからなあ。歯向かえば、どないな目に合わされるかわからん。
命と引き換えにでけるほど、この舞を大事にしてたわけでも、おません。
何より、あんたが長一郎の子を産んでくれる。それだけで十分や」
「…お義母さん…」
「ほんまになあ…ええ子をうんでおくれよし。帰ってこれなんだ長一郎のためにもな」
「はい…お義母さん…」
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「なんべん言うたらわかるの!長太郎!そこは、りあむんや!腰入れて!もういっぺんや!」
律子が長太郎に、今日、何十回目の駄目出しをする。
見ていたほかの弟子たちは、ひそひそとささやきあう。
「いくら跡継ぎって言ったって、ちょっと、厳しすぎない?」
「せやな。もう30分は、りあむとこだけや…」
「そこ!」
律子の怒鳴り声に、ささやきあっていた若い弟子たちがすくみあがる。
「もっと腰入れて!!もういっぺん!」
「律子はん、もうそれくらいにしとぉいたら…」
「お義母はん、黙っといておくれやす!今、伝えな、この舞は私の代で途絶えてしまいます!どうしても、長太郎についでもらわな、あかのんです!やっと、日本に自由が戻ってきたんです。帰らなかった長一郎さんのぶんも、この子に…」
横から口を出した姑を、律子は涙をいっぱいにためた目で、にらむ。
そのまなざしに、帰らぬむすこ、長一郎を思う嫁の心を見て、姑は何も言えなくなる。
「おばあさん、だいじょうぶです…僕は、なんとしても、この舞を、完成させます。そして、後世に伝えます…それが、僕の代の使命やと思ってますから」
孫の長太郎がそう言うのを聞き、姑は涙ぐむ。
(長一郎…おまえが見られぬままに育った子なのに、長太郎は、おまえの魂を受け継いでいるよ)
仏壇にまつられた長一郎の位牌が、ほほえんだような、気がした。




