夢の国
夢の国
いつのことだか、覚えていない記憶がある。
とても寒かった。
誰かに手を引かれて歩いていた。
私はとても小さく、手を引く人はとても大きかった。
繋いだ手だけがぽかぽかと暖かい。
くちゅん、と私がくしゃみをすると、私の手を引く大きな人が、私の体を、何か暖かくふわふわしたもので包み、抱き上げてくれた。
記憶はそこで途切れている。
その人は男性だったような気がするのだが、父親のいない私を、抱き上げてくれるような人に、心当たりはない。
先日、母が亡くなり、遺品を整理することになった。
元来、綺麗好きな母の部屋はきちんと整頓されていて、片付けの労はほとんど無かった。
アルバムをめくっていると、一枚だけ、ページの間に挟んだだけの写真が出てきた。
手に取って見て、ああ、この人だ、と思った。
私が3歳の頃のことだ。遊園地へ行ったのだ。母と二人で。
そこで、迷子になった私を、その人が見つけ、手を引いて迷子センターまで連れて行ってくれたのだ。
すっかり忘れていたが、子どもを育てる年齢になった今でも、その遊園地のことが好きで好きで仕方ないのは、その人がくれた暖かい思い出のせいだったのかもしれない。
写真には、眠る私を抱っこしている、ミッキーマウスが写っていた。