表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
104/888

あたたか〜い、ひんやり

あたたか〜い、ひんやり

由香は自販機をつらつら眺めるのが好きだ。

眺めるだけで、めったに買いはしないのだけど、季節ごとに入れ替わる色とりどりのジュースを見るだけで、世の中の流れを捕らえた気になれる。


とくに、名も知らぬ飲料会社の自販機は大手飲料会社より、多彩なラインナップで面白い。



クレープ缶やパスタ缶を発見したときは、思わず買いそうになった。


ありがたいことに、いつ見ても売り切れ中だったので、ムダな散財とムダなカロリー摂取を抑えられた。


しかし、今日は、品物があった。

しかも、大特価50円だった。


商品名は「ひやしあめ」。


いったい、これは何だろう?

気になって、コインを入れボタンを押す。

出てきた缶は熱かった。


「ひやし」とあるから、てっきり冷たいと思っていた由香は、びっくりして缶を落としそうになった。


ボタンの表示を見ると「温か〜い」になっていた。


「????」


あまりに謎な「ひやしあめ」が気になり過ぎて、もう一本買ってしまった。

帰宅した夫に子細を話して聞かせる。


「へぇ! ひやしあめ! 懐かしいなあ」


「知ってるの?」


「もちろん!昔は駄菓子屋で普通に売られてたよ」


一回り年上の夫の昔語りを聞いていると、由香は日本昔話のようだ、といつも思う。夫にはヒミツだが。


「結局、これは、冷た〜い、温か〜い、どっちがホントなの?」


「どっちもアリだよ。冷やせば、ひやしあめ。温めれば、あめゆ。って言うけどね」


「へぇ。じゃ、コレはひやしあめだから、冷やしてみるね」



夫のススメで風呂上がりに、ひやしあめを飲んだ。

とろりと甘く 、独特の刺激と香りがある。


「なんだろう、この香り……知ってるんだけど、思い出せない」


「ショウガとニッケだよ」


「にっけ?」



「肉桂。えーと、なんていったっけ……。そうそう、シナモン! シナモンだよ」


「あ〜。そうだ! しなもん。ふ〜ん、昔の人は、シナモンのことニッケっていうんだ」


「そうそう。って、誰が昔の人やねん!」


夫がエセ関西弁で漫才師のように突っ込みを入れる。いつも通りの夫婦のやりとり。冷た〜いひやしあめを飲みながら、でも、心はなんだか「温か〜い」ボタンを押したようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ