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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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眠りの森の

眠りの森の

むかしむかしあるところに、貧しい木こりがおりました。

木こりには一人娘がおりました。

娘は働き者。朝早くに起き出して掃除に洗濯、糸紡ぎ。夜遅くまで起きていて縫い物、編み物、ヤギの世話。それはそれは楽しそうにくるくると働きました。

そのおかげで木こりと娘は少しだけ裕福になり、森のほとりの小さな小屋を買うことができました。


しばらくは新しい家で幸せに暮らしておりました。

ところが、娘は次第に眠る時間が長くなっていきました。

夜眠る時間がどんどん早くなり、朝起きる時間がどんどん遅くなりました。

娘が昼過ぎまで起きてこなかった日、木こりは心配して娘を揺り起こしました。


「娘や、どうしたんだい?どこか具合でも悪いのかい?」


娘は目をこすりながらあわてて起き上がりました。


「まあ、もうこんな時間!ごめんなさい、すぐにヤギの世話をします」


木こりは娘の肩を押し座らせました。


「そんなことはいいんだよ、それより体は大丈夫かい?」


「ええ、お父さん、私は元気です」


娘はにっこりとほがらかに笑います。その笑顔を見て木こりは安心しました。


「いつも頑張りすぎた疲れが出たんだろう。しばらく仕事を休んで好きなだけ寝ていなさい」


娘は嬉しそうにさっそく枕に埋もれて眠りました。


そのまま娘は夜になっても朝になっても次の夜になっても眠ったままです。

木こりがまた心配して娘を揺り起こしました。

しかし娘は目をさましません。

いくら揺すっても、大声で呼んでも、抱き起こしても、娘のまぶたはピタリと閉じたまま。

木こりは途方にくれて、村の魔術師のところへ相談に行きました。


魔術師は娘の夢をのぞいて言いました。


「この子は夢の中で恋をしている。誰かの夢とつながってしまったんだ」


「どうしたら起こすことができますか?」


木こりが身を乗り出してたずねると、魔術師はポケットから小さな鈴を取り出しました。


「相手の男を探しだして耳元で鈴を鳴らしなさい。そうしたら娘に鈴の音が届き、目をさます」


木こりは鈴をうけとると、さっそく出発しました。

町へ出て、目覚めない男の噂を探し回りました。

しかし、町中をすみからすみまで探し回っても、そんな男の噂はありません。

疲れはて、町の旅籠に部屋をとりました。4人部屋でしたが、その部屋には木こりと旅芸人しかいませんでした。


「あなたは朝から町中を歩き回っていましたが、いったいどうしたのですか?」


旅芸人に聞かれ、木こりは事情を話しました。


「なるほど。それならば、隣街に行ってみたら良いでしょう。大きな街です。きっと知っている人がいますよ」


木こりはお礼を言って、眠りもせずにすぐに隣街に出発しました。


隣街は山を二つ越えなければならないほど、たいへん遠くにあるのでした。木こりは飲まず食わず眠らずに歩き続け、街にたどり着くとバッタリと倒れてしまいました。


木こりが目をさますと、街の医者の家にいました。


「気がついたかね。いったい何があったんだね」


木こりは今までにあったことをこと細かく話しました。

すると医者は木こりを立たせ、急いでお城へ連れていきました。


医者と木こりは王様の前に立ちました。


「王子を目覚めさせることができるとは本当か」


医者は木こりがなぜこの街に来たか話しました。

王様は深く頷いて木こりを王子さまの寝室へ通しました。

王子さまは賢そうな優しそうな素敵な人でした。

木こりは、なるほど娘が好きになるはずだと納得しました。


そして王子さまの耳元でチリンチリンと鈴を鳴らしました。

ところが王子さまは目をさましません。


「どうした?早く王子を目覚めさせよ」


王様に言われ、木こりは一生懸命、鈴を鳴らしました。しかし、王子さまは目をさましません。


王様は腹をたて、木こりを牢屋に入れてしまいました。


木こりは牢屋の中で途方にくれました。魔術師の鈴は偽物だったのだろうか。娘を助けることはできないのだろうか。


考えて考えて考えても、答えは見つかりません。木こりは疲れて牢屋の中でうとうとと眠ってしまいました。


木こりは夢を見ました。

娘が無事に目覚めて、ひとりぼっちの家の中で泣いている夢です。


木こりは今すぐに飛んで帰りたかったのですが、牢屋を出してもらうことはできませんでした。


それから一ヶ月が過ぎました。

木こりは牢屋の中で痩せさらばえて髭はのびほうだい、垢まみれ。

何度うったえても牢屋から出してはもらえませんでした。


ある日、お城中が大騒ぎになりました。

木こりがいる地下の牢屋にも、そのざわめきが聞こえてきます。


牢屋の見張りの兵士が何事か確かめに階段を上っていき、すぐにかけ降りてきました。


そのすぐあとを王様が降りてきて、王様のうしろから娘が歩いてきました。


娘は木こりの姿を見ると、駆け寄ってきて涙を流しました。娘の無事な姿に、木こりも涙があふれ止まりません。


二人の様子を見て、王様は頭を下げました。


「疑ってすまなかった。そなたの鈴は本物だったのだな。ただ、王子を目覚めさせるためのものではなかっただけ。そなたの娘御が王子のための鈴を持ってきてくれたのだ」


木こりはすぐに牢屋から出され、娘と手を取り合い喜びました。


その後、目覚めた王子と娘は結婚しました。


木こりは王様から街に住むようにと言われましたが、断って住み慣れた森の我が家に帰りました。


その森は今では眠りの森と呼ばれ、王様の森になりました。

森にはたびたび娘や孫や王様や王子さまが遊びに来て、いつもにぎやかなのでした。

そこで木こりは王様の森番としていつまでも幸せに暮らしました。


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