先立つものは金
「子供料金はやめてくれ。恥ずかしくて死にたくなる」
「そこまでいうなら大人料金でいいけど、お金を払う私の身にもなってよ」
遊園地のチケット売り場の列に並び、そんな話をしながら年甲斐も無くわくわくとしていた。
「金なら俺の分だけ後で払う。利息も付けるよ」
「別におごりでいいんだけどね。さてと、とっとと中に入ろう。案内してよ」
「迷わせ屋の俺に案内を頼むとはね」
正面にある巨大なゲートを潜り抜け、開けた場所に出る。
ここが遊園地か。
色々な出店の様なものがそこら中にある。見たことも無い遊具が視界に広がっていた。平日であるというのに、多くの人で歩く場所がないように見える。
「ここが……。おっと」
後ろの人に押され転びそうになった。これだけの賑わいだとただ立っているだけでも辛いものがある。
「気を付けろ。俺は何回か来たことあるけど、人混みに飲まれたら迷っちまうぜ」
「言われるまでも無く、気を付けているよ」
既に鞄は誰にも盗られぬよう腕の中で死守してある。若干の不安と言えば、遊具に辿り着くためには、この人混みの中を大金を持ちながら進んでいかなければならないということだ。
「なんで三百万全部手に持ってんだ。ロッカーあっただろ、預けてこい」
「ロッカーは信用してない」
「じゃあ俺に預けろ」
「ロッカーに預けてくる」
近場のロッカーまで小走りで向かった。漫画や小説の見過ぎかもしれないが、ロッカーというものにはどうも抵抗がある。ロッカーに大金を入れ、鍵を渡し違法な物を取引。よく聞く話だ。これから大金を預ける身としてはやはり躊躇してしまう。
そこにドスッ。と。
ロッカーと大金に気を取られていたせいか、右側から来る男性に気付かず衝突をしてしまった。やはり運悪く、その男性は巨大な体に厳つい顔。楽しくて可愛いこの遊園地には、まるで似つかわしくない風貌だった。
「おい、お前。どうするんだよこの服。お前とぶつかったせいで俺が食べてたホットドックのケチャップがべったり付いちまったじゃねえか」
なんて古風な。
「クリーニング代とか払っといたほうがいいんじゃねえの?」
「えっと、十万円で足りますか?」
鞄の中から十枚の紙幣を渡す。
「お、おう」
男性はゆっくりと後ろを向き、上機嫌で私から去っていった。
「世の中、金。というけれど、本当にその通りかもね」
私の運の悪ささえもお金の前ではまるで敵わない。
ロッカーの右上に百万円、左下の所にもう百万円の総額二百万円を預けた。わざわざ別々の場所に入れたのは『そうだ! ロッカーに大金入ってそうだから壊して開けようぜ! まずは右上からな!』となった時のことを考えて念のためである。
「さてと、尽の所に戻らなきゃ。ってあれ? 尽がいない」
さっきまでは目の届く範囲にいたはずの尽少年が、見えなくなっていた。
「あれだけ私に注意しといて人混みに飲まれたのかなあ? まったく、仕方ない」
困ったときは迷子センターだ。