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幼なじみは騎士  作者: 細雪
本編
6/14

嫉妬

 その日は非番だった。ステラと街へ出ようとしていたサラは城への跳ね橋のところで馬を厩舎から出してきたアルヴィンに出くわした。朝早くから出かける彼にも驚いたが、何より驚いたのは彼がめかしこんでいたことだ。


「どうしたんです、そんな格好して」


 そう訊ねたがアルヴィンは何だか言いにくそうにして答えない。「野暮用?」なんて逆に訊ねられて、首を傾げ返すしかなかった。


「アルヴィン班長、どうしたんだろうね」


 馬に跨って去って行くアルヴィンを見送って、ステラも首を傾げる。


「ステラさん、サラ。二人でお出かけですか」


首を傾げている二人に声をかけたのは、アルヴィンと同じように馬を引いてきたエドワードだった。


「そうなの。リオン班長のお使いでね。班長人使い荒いから」


そう言いつつ嬉しそうなステラを見て、エドワードは目を細めた。


仮にも年上の女性を、まるで年下の娘を見守るような微笑ましい目で見つめていいのかしら。


サラはエドワードの表情にはらはらしたが、ステラは全く気付かない。


「じゃあ気を付けて行ってらっしゃい。俺も今日はぶらついてきます。サラ、また」


「ああ、うん。エドワードも気を付けて」


エドワードを見送ると、アルヴィンの様子がおかしかったことはすっかり忘れて、サラはステラと街へ繰り出した。買い物は全てリオンの用事だったが。


 お昼はカフェでデザート付きのランチを頼み、ちょっとのんびりする。これくらいの贅沢は許されるだろう。リオンもお駄賃としてお昼代を多めに渡してくれていた。


「ね、班長実は優しいでしょ」


 デザートのタルトをつつきながらステラが嬉しそうに言った。


「ステラさんは本当に班長のことが好きなんですね」

「尊敬してる。あたし、リオン班長に拾って貰ったんだ。その時身に沁みて班長の優しいところ知っちゃったから。班長の役に立ちたいから頑張れるの」


 そう言ったステラの笑顔が何だか眩しかった。


 用事を済ませて城に戻り、リオンの執務室に買った物品を届けると、彼は予想通りぞんざいに労ってくれた。


「非番なのにご苦労だったな。もういいぞ。戻って寝ろ」


 せめて「戻って休め」と言ってくれればいいのに。


 執務室に残るステラと別れて食堂へ下りると、ちょうどエドワードと行き会った。


 一緒に夕食をトレイに載せてテーブルにつき、食事をとる。まだ時間が早いので食堂はがら空きだ。


 ふいに彼がパンをちぎりながら「そういえば」と言った。


「今日、アルヴィン班長がどこ行ってたか知ってるか?」


 聞かれて今朝、彼の様子がおかしかったことを思い出す。


「知らない。何なの?」

「お見合い」


 スプーンからジャガイモがスープの中に落下してスープがはねた。「行儀悪いなあ」とエドワードがそれを拭いてくれる。


「ごめん。お見合いって?何でエドワードが知ってるの?」

「今日街でたまたま見ちゃったんだよね。商店街のレストランで。さっきカイル班長にちらっと聞いてみたんだけど、第二師団のお偉いさんからの紹介らしいよ。娘さんの方がアルヴィン班長に一目惚れしちゃったんだって」

「見てくれに騙されたってわけね。実際に話して幻滅したんじゃない?その人」

「いや?王都にいた時に何回か顔を合わせているらしくてさ、もうぞっこんみたいだよ」


 まさか王都で見たあの子だろうか。ぞっこんって何だ。確かにアルヴィンは精悍で格好良い。普段はぶっきらぼうなのにふとした時に優しくなる。あんな風に優しくされたら、好きになってしまう気持ちはわかる――・・・。


 ずいっとエドワードの方にトレイを押し出すと、彼は怪訝な顔をした。


「食欲なくなった。あげる」


 エドワードは軽くため息をつく。


「そんなショックを受けるぐらい班長のことが好きなら、どうして班長にそう言わないの」

「言わないって決めてるの。あの人の役に立ちたくてここまできたの。私の気持ちはあの人の邪魔だから。だから言わない。言って困らせたくない」

「じゃあどうして班長がくれた髪留めを毎日大事につけてるの。どうして班長に言われたとおり髪を伸ばしたの」


 君たちはどうしてそう頑ななんだろう。


 エドワードが小さく呟いた。「君たち」?


「サラはさ、逃げてるだけだと思うよ。班長に拒絶されるのが怖くて逃げてるんだろ」


 図星をさされて唇を噛む。何も言えずに黙っていると、エドワードが「ごめん」と謝った。


 ぽたぽたと涙がテーブルに落ちる。みっともない。慌てて手の甲で頬を拭った。


「ごめんサラ。ちょっと八つ当たり。サラが班長のことを大事に思っているのに何もしないのがもどかしくて」

「ううん、いいの。違うの。私が悪いの。私が中途半端なの。あの人が結婚するならいい機会よ。気持ちにけりをつけられる」

「何でそうなるんだよ。班長がサラの気持ちに応えてくれるかもしれないだろ」

「そんなことない。あの人は私のこと妹ぐらいにしか思ってない――・・・」

「わからないだろ、そんなこと!」


 語気を荒げたエドワードがたまりかねたようにサラの手を掴んだ。


「何で何もしないのに諦めるんだよ。そんなのサラらしくない――・・・・・」

「おいクソガキ。公衆の面前で何してんだてめえ」


 低い剣呑な声がして、エドワードの腕が捻り上げられた。「いでででで」と悲鳴があがる。


 捻り上げているのは――・・・アルヴィンだ。


「アルヴィン、その調子だと肩が抜けるぞ」


 恐ろしい忠告をするのはエルドレットだ。「抜けたら嵌めればいい」とリオンが言う。


「班長班長班長痛いですほんとに抜けます肩がもう無理・・・・・」

「うるせえ黙れクソガキ!てめえサラに何しやがった」

「何もしてないですってば!」

「じゃあ何でサラが泣いてんだ!」

「痛いですってばもう無理!もとはと言えば班長のせいでしょう!」

「は?」


 アルヴィンがぽかんとして思わずと言ったようにエドワードの腕を解放した。エドワードはひいひい言いながらアルヴィンから飛びずさって離れる。


 サラは慌てて彼の弁護に移った。


「違うんです、アルヴィン班長。個人的なことですから気にしないで下さい。何でもないんです」

「何もないわけねえだろ」

「班長の手を煩わせるようなことじゃないです。ほんとに。じゃ、失礼します」


 トレイはエドワードに押し付けたまま、その場を逃げるように退散する。エドワードには悪かったが、一刻も早くこの場を離れたかった。

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