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幼なじみは騎士  作者: 細雪
本編
2/14

焦燥-2-

 一年後、サラは騎士団学校に入学したいと家族に言った。家族は反対したが、何とか説得して入学を許して貰った。

 騎士団学校は騎士団の本拠であるヴァルトガルドにあった。アルヴィンは見習い騎士を終え、第一師団に配属になったので同じヴァルトガルドの城にいるはずだった。しかし、サラは学校の寮で生活することになるし、休日もあまり出歩くつもりはなかったのでアルヴィンに遭遇することはないだろうと考えていた。彼に会って、彼がどういう反応をするのかがわからないのが怖かったのだ。少なくとも、歓迎はしてくれないような気がしていた。

 しかし、騎士団学校の入校式典の際に騎士団長の護衛としてついた騎士のなかに彼がいた。サラは入校に際して髪を短く切っていたし、気付かれることはないだろうと思っていたが、式典を終えて広間を出る時に騎士団長と護衛の傍を通るはめになってしまった。一人ずつ敬礼して団長の前を通って行くらしい。これは逃れられない。

 サラは列の最後の方だったので、覚悟を決める時間は十分にあった。覚悟を決めて団長の――というよりアルヴィンの――前に立った。教えて貰ったばかりの騎士の礼をとると、団長も礼を返してくれる。彼の両側にいる護衛の騎士も同じように礼をとる。そっとアルヴィンの方を窺うと、意外に彼は口元を緩めて笑っていた。

 どうして驚かないんだろう。そう思いつつ彼らの前からさがる。その後訓練生は寮へと移動することになっており、サラもその後に続いた。前の訓練生に着いて歩いていると、ぐいっと腕を掴まれた。振り向くとアルヴィンだ。

「よ、サラ。式典どうだった。眠かっただろ」

 アル、と言おうとして気付く。彼はもう幼馴染ではなく先輩であり上官なのだ。

「びっくりされるかと思っていました」

「おばさんから手紙が来たんだよ。サラのことをよろしくってな」

 母さんめ、余計なことを。

 サラは顔を顰めたが、アルヴィンはにやりと笑った。

「いろいろ大変だろうが励めよ。じゃあな」

 サラの肩をぽんと叩き、アルヴィンは去って行く。母が知らせていたとは言え、思ったよりも好意的な反応にほっとした。

 列に戻ったサラに、後ろにいた男が話しかけてきた。

「なあなあ、今のアルヴィン様だろ?知り合いなの?」

「同じ街の出身なの。・・・・・彼、有名なの?」

「有名だよ。七十九期生の首席卒業なんだよ、アルヴィン様」

 成績が良かったとは聞いていたけど、首席だったとは。

 驚いているサラに彼は手を差し伸べた。

「俺、エドワード。よろしくな」

「サラよ。よろしく」

 訓練生のなかで最初にできた友達だった。


 騎士団学校は評判の通り、なかなか厳しいところだった。剣術はもちろん、馬術、格闘術、座学。サラは剣術と馬術は得意だったが、格闘術は苦手だった。ちなみに座学は人並みだ。

 正直あのアルヴィンが座学を堪えられたとは思えず、どうやって首席をとったのか謎だったが、その謎はエドワードが解いてくれた。卒業の際に実技、座学、総合とそれぞれ首席が決まるらしく、アルヴィンは実技の分野で圧倒的な成績を修めたようだ。ちなみに座学はひどかったらしく、総合首席は逃したらしい。

「卒業したらどの師団に所属したい?あたしは第二師団がいいなあ。やっぱり王都に行きたいし」

 卒業を控えると、仲間うちでそんな話題が出るようになった。

「あたしは第三師団に入りたい。あたしの家の方に駐屯したいから。サラは?」

「私は第一師団かなあ」

 食堂で話す時はここまでだが、夜に寮の部屋で話すとここでは終わらない。

「第一師団に行きたい理由って、アルヴィン様がいるからでしょ?」

「アルヴィン様、素敵よねえ。男らしくて。あんな方と仲良しで羨ましいわ」

「あたしの憧れはエルドレット様!」

「ええ?あの方ちょっと怖くない?」

「そこがいいのよお!」

 部屋が笑い声で溢れる。訓練はしんどいこともあったが、ここでできた仲間はかけがえのないものだ。


 三年が経ち、卒業の日がきた。厳かな式典の後は騎士だけではなく貴族までも参加する盛大な夜会が開かれた。卒業生は卒業生で固まっているのが常で、サラも例にもれずエドワードたちと一緒にいた。

 サラに飲み物を取ってくれたエドワードが、部屋の隅を指してみせた。

「アルヴィン様がいるよ」

 見ると、アルヴィンが黒髪の騎士と金髪の騎士と一緒にいるのが見えた。そこに一人の娘が現れてアルヴィンに話しかける。黒髪と金髪の騎士がその場を離れ、アルヴィンはその娘と話し始めた。

「君の幼馴染は大人気だね」

「そうね」

「放っておいていいの?」

「前にも言わなかったっけ。彼は私の目標なの。いつか一緒に戦えればいいなって思ってるけど、それだけだよ」

 エドワードは納得がいかないように肩をすくめて見せたが、それ以上は何も言わなかった。

 何となく気まずい空気になったところで、同期の卒業生が連れ立って二人のところへやって来た。みんな頬が赤い。手に持っているのはワイングラスだろう。

「エドワード、サラ。所属師団の希望、どこにしたんだ?」

「私は第一師団」

「俺も。ジャックたちはどこにした?」

「俺たちはみんな第二師団なんだ。やっぱり王都に行きたいからさ。でもコンラッドがちょっと不憫なんだよ。エイミーが第三師団で希望を出したらしくて、喧嘩になっちゃったんだよなあ」

「えっ。コンラッド、おまえエイミーとできてたのか」

「あらエドワード、知らなかったの。情報通のあんたにしちゃ珍しいわね」

「サラ、言ってやるなよ。エドは色事には疎いんだよな」

「うるせえなあ」

 どっと笑い声があがる。この仲間たちと会えて良かったと素直に思うことができた。

 ただエイミーとコンラッドが仲違いをしてしまったのはちょっと心配だ。あとでエイミーを探して話を聞こうと思った。


 サラの所属は希望通り第一師団の第三分隊になった。ちなみにエドワードも全く同じ配属で、つくづく腐れ縁だと二人で苦笑した。一年間は騎士見習いだが、よほどのことがなければそのままの所属で正式な騎士となるため、しばらくはエドワードと一緒だろう。

 初めてヴァルトガルド城に入ることとなった日、ずらりと食堂に並んで迎えてくれた先輩の騎士のたちのなかにアルヴィンもいた。

「敬礼ッ!!」

 師団長の号令とともに、食堂に集合した全ての騎士が敬礼する。サラは自分も敬礼しながら、目ではアルヴィンを見ていた。同じ姿勢をとっているはずなのに、随分とかっこよく見える。

 師団長が挨拶をした後、所属分隊に分かれて顔合わせとなった。その面子を見て嘘だろうと頭を抱えたくなる。

 エドワードが耳打ちしてきた。

「アルヴィン様と一緒じゃないか。良かったなサラ」

 良くない。さすがに四六時中アルヴィンと一緒に行動するというのはやりづらいような気がした。

「第三分隊長のトリスタンだ。これからよろしく頼む。今からこの副隊長のペリーズが各班の振り分けを発表するから、よく聞くように」

「副隊長のペリーズだ。班長はここにいるエルドレット、リオン、アルヴィンだ。それでは班分けを発表するぞ」

 アルヴィンの班になったらどうしようかと思ったが、幸いサラはリオンの班だった。エドワードがアルヴィンの班で「代わってやろうか」と言われたので足を踏んでやった。

 リオンはアルヴィンより少し年上の、目つきの鋭い男だった。随分怖そうな上司にあたったようだ。班員で一通り挨拶をしたが、その間中彼は見習い騎士を品定めするように見つめていた。

 顔合わせが終わり、ばらばらと解散し始めた時にアルヴィンがこちらへやって来てリオンの肩に腕を回した。

「リオン、その子俺の幼馴染なんだ。あんまり苛めんなよ」

「この小娘が?」

 早速小娘呼ばわりである。

「そ。この小娘が。よろしく頼むわ。俺に似て気骨はある奴だからよ」

「ふん。偉そうな口を聞くようになったな、小僧が」

 アルヴィンは小僧呼ばわりだ。

「明日は朝の鐘が鳴ったらここに集合だ。今日はもうすぐ夕飯だからそれ食ってさっさと寝ちまえ」

 アルヴィンを押しのけながら指示を下し、リオンは食堂を出て行った。

「ちょっととっつきにくいところがあるけど、悪く思わないでね。悪気はないの」

 残っていた先輩騎士の一人がサラに笑いかける。同じ班で唯一女性のステラだ。

「アルヴィン班長の幼馴染とはびっくり。班長って昔からこんなのだったの?」

「ステラ。こんなのとは挨拶じゃねえか」

「あら、ごめんなさい。そうですよね。じゃあ部屋に案内するね。こっち」

 ステラに腕を引っ張られながら振り向くと、アルヴィンがひらひらと手を振っていた。

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