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幼なじみは騎士  作者: 細雪
本編
11/14

共闘

 部屋に無粋なノックの音が響き、アルヴィンが不愉快そうに眉をひそめて少し身体を起こした。


「アル・・・・・」

「いい。放っておこうぜ」


 耳元で囁かれてまたぞくりとする。思わず目をぎゅっと閉じたサラに啄むようなキスをして、アルヴィンが妖艶に微笑んだ。普段の彼からは想像もつかないような表情だ。


 また扉が叩かれた。


「アルヴィン。ここを開けるか蹴破られるか選べ」

「俺は留守だ。邪魔すんな!」


 エルドレットにアルヴィンがサラにのしかかったままで怒鳴り返す。


「そうか。いつ帰って来る?」

「さあな。しばらく放っておけ」

「そうはいかないんだ。師団長の用事だからな」

「あとにしろ」

「ガイの件だ」


 チッとアルヴィンが舌打ちした。


「開けるから待て」


 そう言ってもう一度サラに口付けて起き上がったアルヴィンは、もう騎士の顔だった。サラもおずおずと身体を起こす。


 入って来たエルドレットはいつかのようにサラを一瞥し、ソファの前にあるテーブルにどっかり腰を下ろした。迎えるアルヴィンも執務室の机に座っている。サラは席を外そうとしたが、エルドレットは構わないと言った。


「ガイの件だが…五日後に審議が開かれる。どうなるかまだわからないが、処刑されるのが濃厚だ」

「そうか・・・・・。あれだけのことをしたんだ。そりゃあそうだよな・・・・・」


 自分に言い聞かせるようにアルヴィンが呟く。サラはきゅっと拳を握り締めた。


 ガイのことは許せない。それでも彼は良き騎士で良き仲間だったのだ。


「そういうわけだからアル、審議所に書類持って行ってくれ」

「あ?何で俺が」

「みんな休暇中だ。俺はおまえの分まで書類書いてやったんだぞ。お遣いぐらい頼まれてくれてもいいだろう」


 ぺらりと一枚の書類をアルヴィンの前に出して、エルドレットはにやりと口角を上げた。


「逢引がてらちょうどいいだろう。サラと二人で行って来い。俺は別件を片付ける」

 休暇といえど班長には休みがないらしい。エルドレットは聞き捨てならない一言を残して出て行った。


 聞き捨てならない一言をアルヴィンはポジティブにとったらしく、「それじゃ行くか」とサラを促した。



アルヴィンと連れ立って審議所へ行って書類を出すと、彼はサラを城壁の上へ誘った。城壁に上ったアルヴィンは気持ちよさそうに伸びをしている。


「おっ、あんなところにケーキ屋ができてるぞ」


「遠征の前にステラさんと行った。アップルパイがおいしかったよ」


 その時のことを思い出して、目の奥が熱くなった。アルヴィンが察してそっと肩に手を置いてくれた。


 その温かさに甘えながら街を見下ろしていると、巡回中の騎士がばたばたと慌ただしく動いているのに気が付いた。アルヴィンの手がするりと外された。


「何かあったな」


 アルヴィンが城壁に伝令として上がって来た騎士を捕まえて事情を聞く。


「地下牢からガイが逃げました。現在追尾中です」

「何だと」


 目を見開いてアルヴィンが「俺たちも探すぞ」とサラを促して城壁を下りようとする。サラはその手をぐっと掴んだ。


「下には十分騎士がいるわ。上から探そう」 


アルヴィンは少し驚いたように目を瞠ったが、すぐに頷いてサラと並んで城壁の上を駆け出した。


 ガイはどこに行ったのだろう。地下牢から逃げ出してもそんなに遠くへは行けないはずだ。ましてや城壁を越えるなんて不可能だろう。逃げ出してどうするつもりだったのか――・・・。


「見ろ、あそこ」


 アルヴィンが下にある人通りのない 倉庫群を指差した。人が隠れるにはもってこいである。近くの塔から下に下り、倉庫群の扉を順番にチェックする。しかしどれも開かない。


「ここじゃねえのかもな」


 アルヴィンがそう言いながら最後の倉庫の扉に手をかけた。ガチャリと鈍い音がして扉が動いた。アルヴィンが眉をひそめて動きを止めた。サラに自分の後ろへ来るよう合図をしてゆっくり扉を開ける。



 中を見ると、果物の詰められた箱が所せましと並んでいた。暗くて奥の様子はわからない。


 目を見交わし、一歩足を踏み入れたアルヴィンとサラの両脇で金属音がした。


「動くな」


 奥から低い声がしてガイが姿を現した。両脇から二人に剣を突きつけているのはきっと彼の仲間だ。ぼろぼろになったガイの姿に、サラの胸が一瞬痛んだ。


「ここなら見つからないと思ったんだが甘かったな。班長、サラ、見逃して貰うわけにはいかないですよね」

「愚問だな。この剣をどけろ」


ガイは首を横に振った。無精髭が伸びていて、茶色の髪も色がくすんで乱れている。


「ガイ、逃げ切るなんて不可能よ。一緒に城へ帰ろう」


そう言うと、彼は自嘲的な笑みを口元に浮かべた。彼がそんな笑い方をするのをサラは初めて見た。


「それはやってみなきゃわからない。悪いけど抵抗させて貰う。この前は殺せなかったけど、今回は違う」


アルヴィンがちらりとこちらを見た。彼と一瞬目を合わせてから、サラは毅然とガイを睨み付けた。


「私も容赦しない。仲間の仇はとらせて貰う」


アルヴィンの手が動いた。右側に立つサラの腰に手を伸ばし、サラの剣をすらりと抜く。そのまま彼に剣を突き付けている男に斬りかかった。サラも自分に降り下ろされた剣を飛んで避ける。そのタイミングで自分の剣を抜いたアルヴィンがサラに剣を投げて寄越す。それを受け取り、サラも男と剣を合わせた。


それぞれ一人ずつ倒したものの、倉庫の奥からはわらわらと男たちが出てきて二人を取り囲んだ。アルヴィンとサラは背中合わせになって彼らと対峙する。


「ガイから目を離すな。こいつらをぶっ倒して奴を拘束する。ここから奴を出しちゃならねえ」

「了解」

「おまえの背中は俺が守る。俺の後ろは任せたぜ」

「はい」


アルヴィンの背中が自分の背中に当たって微かに温かい。その温もりを失わないために死力を尽くそうと剣を握り締めた。


一人の男が踏み込んできたのを合図に死闘が始まる。サラは背中のアルヴィンを守ることだけを考えて剣を振るった。相手の顔なんて見ていられない。


ガッと段違いの力で刃を合わせられ、はっとして見るとガイが必死の形相でサラを倒しにかかってきていた。班でも実力者だったガイの相手は一瞬も気が抜けず、周囲への注意が疎かになる。しかしそれはアルヴィンがフォローしてくれていた。


ガイは凄まじいスピードで刃を振るってくる。サラはそれを受けるのが精一杯だ。


「剣の動きを追おうとするなっつってんだろ。相手の動きを読め」


耳の奥にリオンの不機嫌な声が蘇った。


ガイが繰り出した剣先を受けるのではなく、するりと避ける。そして彼が空振った隙にこちらが剣を繰り出した。その剣がガイの肩口を切り裂き、彼が呻いてたたらを踏む。サラは剣を構えたまま、肩を押さえて立っている彼を見つめた。


ピイッと甲高い音がして、はっと我に返ると敵を全て倒したアルヴィンが呼子を吹いていた。ガイはいつの間にか膝をついてこちらを力なく睨み付けている。


「サラ、平気か」


 アルヴィンがサラの肩に手を置いて顔を覗き込んできた。頬に一筋切り傷ができて血が流れている。サラがガイの相手をしている間、彼は何人の男を相手に戦っていたのだろう。


サラが彼を声もなく見つめている間に、呼子が聞こえた騎士たちが到着した。第二分隊の騎士らしく、率いてきたカイルが人や物が散乱している倉庫を覗き込んで眉をひそめる。


「アル、どうしたのこれ」

「見りゃわかるだろ。仕事しろ仕事」

「はいはい。じゃ、君たちそこらへんに転がってるお兄さんたちに縄かけて」


カイルは持ち前の呑気さで指示を出し、自らは膝をついているガイのもとへ歩み寄った。目の前にしゃがんでくいっと人指し指でガイの顎を上向かせる。


「派手にやってくれたね?俺としてはリオンの仲間を殺してくれた君を同じ目に遭わせてあげたいんだけど」


カイルの口元に笑みが浮かんだ。しかし、目は全く笑っておらず蔑むように眇められる。


「君のことはそんな簡単に楽にさせてやんないよ。リオンやサラちゃんや俺たちの苦しみを理解してから死ぬべきだ。わかるよね?」


カイルが立ち上がり、部下に命じてガイに縄をかけさせた。


サラはその状況を立ち尽くして眺めていた。アルヴィンもその傍らにずっと立っている。


「アルとサラちゃん。悪いんだけど、第二分隊から事情聴取があると思うんだよね。疲れてると思うけど付き合って貰える?アル、怪我してるから先に医務で手当て受けて。分隊長には俺から言っておくから」


 てきぱきと指示を出して、カイルは縛り上げた男たちと部下を連れて倉庫を出て行った。


金縛りから解けたようにアルヴィンが動き出し、今まで手に持っていた剣をやっと鞘に収めた。

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