異世界の神子に婚約者とられたので復讐しようとしたら、王子に迫られました。
主人公は、性格悪いし言葉遣いも悪いです。
ぶっちゃけ、この話に出てくる人みんな性格悪いです。
ちょっとヒワイなとこが最後にありますので、苦手な方はご注意下さい。
アリサは、立ちすくんだ。
目の前が真っ暗にも真っ白にもなって、音が遠くなるような中で、身動きが取れなかった。
ああそうかと、どこかで思った。
こうなるような気もしていたし、安心していたような気もする。
けど、もう、どうだって、いい。
あのクズは、裏切ったのだ。
許すまじ、ああ許すまじ。
ストレスによって、あの毛根を若くして死滅させるまでは、ヤツを許してはならぬだろう。
睨みつけるアリサの視線の先には、茂みに隠れて《神子》に跪いて愛を囁く婚約者リックの姿があった。
* * *
アリサには、婚約者がいた。
優秀な騎士として王宮でも有名で、その甘いマスクとは裏腹に真面目で堅実な侯爵家の次男だった。
仲の良い幼馴染だった。
一つ年上の彼は、家に来る時はいつだって花束やお土産を買ってきてくれた。
好きと言われた事はなかった。
けれど、貴族の政略結婚など総じて愛のないものだと理解していた。
好きと言ったことはなかった。
けれど、彼となら幸せな家庭を築いていける気がしていた。
燃え上がるような情熱的な恋ではなかったけれど、ゆったりとたゆたう穏やかな情だった。
しかし、その友愛の情は、愛情の代わりとはなり得はしなかったのだ。
飢餓と困窮。飢饉と異常気象。
そのさなか。
《神子》が召喚された。
異世界から来た彼女は、この国の誰も持ち得ない不思議な色を有していて、大きな魔力を秘めていた。
さらりと揺れる黒髪、漆黒の眼差し。年齢よりも幼く見える童顔と、象牙色の肌。そんなミステリアスな雰囲気にトリコになった間抜けも多かった。
アリサは、《神子》の存在を初めから好ましく思ってはいなかった。
弱いおつむから弾き出される平和ボケした思考回路と、苦労を知らない甘えた態度。何を言ってるかわからないほど小さな声と、はっきりしない意思。
そして、《神子》がいるだけで世界は救われるのだというその言葉を鵜呑みにして、ちやほやされることに慣れた。
努力もせず魔術を使いこなすことができ、自分は特別なんだと思い込んでいる。
王宮に入り浸っていたアリサには、彼女の態度の変化が手に取るようにわかった。
なぜアリサが王宮に頻繁に出入りしていたかというと、アリサにはもう一人幼馴染がいて、それがこの国の王子だったからだ。アリサは王子に頼まれて、魔術の研究を手伝っていた。そのため、王宮に住んでいる《神子》と遭遇する機会も多かったのである。
おどおどと自信なさげに俯いていた異世界の平凡な女の子は、高慢でプライド高い《神子》へと変貌した。甘やかされることに慣れ、もてはやされることに慣れ、いい気になった。
そんな《神子》でも、この国に必要なのは確かだった。
《神子》がいることで雨が降り、穀物もよく育ち、その恩恵は明らかだった。
しかし、その傲慢な態度は目に余る。
王宮の重鎮共の間で密かに問題になり、そして、そんな《神子》に護衛をつけようという話になった。
抜擢されたのは、アリサの婚約者のリックだった。
王宮で話題の彼なら、歳も《神子》と近いし、隊の中でも優秀で、護衛という名目の目付役としても問題ないということだった。また、リックにはアリサという婚約者がいるために、《神子》と間違いは起こさないだろうということもその理由のひとつだ。
その"間違い"が起こるだなんて、一体誰が思っただろう。
魔力と魅力は比例する、というのがこの国の定説である。
《神子》の魔力は強かったけれど、アリサには及ばない。アリサは、この国の王宮筆頭魔術士にも劣らない魔術の使い手であった。
しかし、その魔力量をもってしても、《神子》に負けたのだ。
アリサは腹わたが煮え繰り返るよりも先に、言い知れない黒い感情が立ち込めるのを感じた。
アリサは性格が悪い。
口も悪い。
それは自分でもわかっていた。
だから、なのだろうか。
それは、魔力でもなんでもなく、人として、アリサが《神子》に負けたのだと、そうリックに言われている気がした。
そう。
あの、《神子》に!!
信じられるか。
いや、あってはならぬ。
あんな女に負けるなど、あってはならぬのだ。
アリサは、呑気に過ごしていた今までの自分を絞め殺したい思いに駆られた。
とりわけ、リックを信用していたわけではなかった。けれど、あの傲慢な《神子》に惹かれることはないと、自分はどこかで高を括っていたのかもしれない。
リックは、とてもよい婚約者だった。あの時までは。
けれど、この仕打ちだ。この様だ。
あいつは私を捨て、《神子》を選んだ。
アリサは、あの光景を思い出して唇を噛んだ。
アリサはその日、王子の誕生日パーティに来ていた。
《神子》も参加していた。もちろん、その護衛としてリックもだ。
「お誕生日おめでとう、アルフォート」
アリサが祝いの言葉を口にすると、アルフォートはその青い瞳を嬉しそうに細め、口元を綻ばせた。
「ありがと」
そう言って照れたようにはにかむ彼は、アリサより二つ年下だ。
なのに、まだ婚約者すらいない。王子のくせに問題である。よもや男が好きなのではあるまいかとアリサは思っていたが、もっぱら社交界の噂では、この誕生日パーティでその旨についても発表するのでは、ということだった。
アルフォートは、ちらりとアリサの背後を伺う。
「あれ、リックは?」
「いないわよ、神子様の護衛で忙しいの」
ため息混じりにアリサが答えると、アルフォートは複雑そうな表情をして、嘆息した。
「……そうか。…もう、結婚するんだよね」
「半年後よ」
心なしかさみしそうなアルフォートに、アリサは心持ち声音を優しくした。
やつは、なかなかに可愛らしい。素直で、何でも顔に出す。王子としてはどうかと思うが、アリサはそんな彼を、弟のように可愛がってきたのである。
うる、と揺れる青色の瞳に、アリサは優しく言う。
「ほんとに、リックと結婚しちゃうの?」
「そんなさみしがらなくても、結婚したって遊んであげるわよ」
それじゃ意味ないよ、そう呟いたアルフォートの言葉は、アリサには聞こえていなかった。
取り繕うように、アルフォートは微笑む。そして、遊んであげるというアリサの言葉に続けた。
「もう遊んでもらう歳じゃないんだけどな」
「まだ17じゃない」
くすくすと笑うアリサは、この後に起こることなんて微塵も心配していなかったのだ。
リックを探しに外へ出た。
《神子》が嫌いだとはいえ、アルフォートがリックにも会いたいと言うのだ。主役であるアルフォートが抜け出すわけにもいかず、アリサが呼んで来ることになった。
なかなか見つけられず、いないだろうとは思いつつも、ひと気のない庭園の奥へと足を進める。
「そんなこと、おっしゃらないで下さい…」
不意に聞こえたのは、聞き間違えるはずもない、婚約者リックの声だ。
聞いたこともないほど、悲壮な響きを持ったそれに、アリサは眉をひそめた。
「だってそうじゃない!」
更に悲壮な声が響く。
《神子》だ。
「信じて下さい、《神子》様」
「神子だなんて、リックに呼ばれたくない!」
「アイ様…。わたしが愛しているのは、あなただけです」
その言葉を発するとともに、リックは《神子》の足元に跪き、その手へ接吻を落とした。
月夜。頬を染める《神子》の勝ち誇った顔。それに気づかず、なお愛を囁く婚約者だったリック。
--------ああ、そう。
アリサは、急激に心が冷めていくのを感じた。
瞬時に婚約破棄の手続きを決意した。
これは信じられない裏切りである。
男はクズだ!
アリサは興奮冷めやらぬ。
けれど、なんとか押さえつけた。
ここで飛び出すのは賢くない。
《神子》に優越感を与えるだけである。そんなことはあってはならぬ。
侯爵家という身分のリックが公爵家に喧嘩を売ったのだ。許してはならぬ。舐められたら終わりなのだ。
アリサは数歩、後ずさった。
そして、その場でわざと足音を立てて、大声でリックを呼んだ。
ハッとしたように離れるリックは、茂みの奥に佇むアリサを見つけて微笑んだ。
何事もなかったかのように。
アリサも微笑んだ。
何事もなかったかのように。
「リック。ここにいたのね。アルフォートが呼んでるわ」
そして、ハッとしたように《神子》を見やる。
「あら、《神子》様。いらっしゃいましたの。ごきげんよう」
淑女の礼をとり、美しく微笑んで見せると、《神子》の顔は面白いくらいに歪んだ。
それは、アリサのプライドだった。
小さな小さなプライドだったのだ。
アリサはその日、家に帰って泣いた。
号泣だ。
何が悲しいのか、何が悔しいのか、何もわからなかったけれど、ただ涙だけが溢れて止まらなかった。
翌日。
何で昨晩、自分が泣く羽目になったのか微塵もわからなくなっていた。
すっきりさっぱりしていた。
アリサは父へ訴え、婚約破棄を求める文と、侯爵家と結んでいた契約も全て撤廃する旨を書き綴った書類を作成し、憮然とリックの元へ乗り込んだ。
しばらくして。
リックが侯爵家当主から勘当されたらしい、という噂をアルフォートからきいた。
あ、そう。となんでもないように返答したが、アリサの心の中はフェスティバルであった。
侯爵家は、公爵家と繋がりを持つことで成り立っていた部分もあるため、そのパイプがなくなったとなればその損失は計り知れないだろう。アリサの父親はご立腹であるので、侯爵家はしばらく邪険にされると思う。
ざまあみろ、とアリサは思った。
けれど、これだけじゃ終わらないのだ。
アリサはあの泣き疲れた月夜に誓ったのだ。
リック、並びに《神子》への復讐を!!
決意に満ちた表情で、アリサは魔術の印が記された書類を纏めて、荒々しくホチキスで留めた。
それを、アルフォートが不安そうに見つめる。
「アリサ、大丈夫?」
「何がだ」
何も案じることはない。
何だってできる。私の手にかかれば、このちんけな国家の結界すら風の前の塵に同じ。
勇ましいアリサに慄いたアルフォートは、その後に続く言葉を継げないようだった。
復讐しか頭にないアリサは、魔術で花を咲かせるなどという頭の中花畑な理論が書かれた書類をくちゃくちゃにした。爆発するが良い。今日のアリサは、世の全てを儚む悪女なのだ。
アリサが求めているのは、落とし穴を掘ったら確実にヤツらが嵌まる魔術と、それが二日間誰にも見つけられない魔術、それから家が没落し、日光を浴びるたびに股間が猛烈に痒くなる魔術なのだ!
なんて恐ろしいのだろう。
アリサは自分で考えたそれに、自分で戦慄した。
これが《神子》をヒロインとしたおとぎ話であれば、アリサは性格が悪い誰からも疎まれる脇役の悪者なのだろう。
彼女の愛するリックの元婚約者であり、婚約者であることをかさにきて二人の真実の愛を邪魔し、やっと結ばれたにもかかわらず、それに復讐を誓いまたも邪魔し、ヒロインにねちねちと嫌がらせをするのだ。
素晴らしい。
ねちねちと嫌がらせだなんて素晴らしい。
リックを愛しているから復讐するのではない。これは裏切りに対する復讐なのだ。
いいだろう。どんなに嫌がられ、疎まれようと、私は成し遂げて見せる。
この崇高なる復讐を。
ふっ、と片方の口角を上げて笑うアリサへ、テノールの声がかかった。
「ねえ、変なこと考えてるでしょ」
その声に顔を上げると、アルフォートがアリサの前に立っていた。
端整な顔立ちを咎めるように歪ませている。アリサは鼻で笑った。
「なんの話かしら?」
椅子をくるりと回し、横に立っていたアルフォートに向き合う。
アルフォートは、戸惑うように視線を彷徨わせて、こくん、と喉を鳴らした。
「……婚約やめて、どうするの?」
慎重に言葉を紡いでいるようなアルフォートへ、アリサはとぼけるように肩をすくめた。
「どうもしないわ」
「……じゃあどこに嫁ぐの。もう貴族の婚期はとっくに過ぎてるのに」
「ほ、ほっといてよ。そうね、魔術の開発研究がひと段落したら、出家するつもりよ。それで冒険者になるの、旅に出るわ。魔術には自信があるから、十分暮らしていけるもの」
「また、馬鹿なこと言って…」
「う、うるさいなっ」
呆れたようにため息をついたアルフォートに、アリサは噛み付くように言った。
そのアルフォートの雰囲気が、いつもと違うような気がしたけれど、顔を背けた。
そして、あれ、とアリサは思った。アルフォートがアリサに馬鹿などと言ったことがあっただろうか。というか、こんな口調だったか。可愛い可愛い弟的存在で、アリサのことに口出してくるような小姑ではなかったはずである。
あれ、とアリサが思うと同時に、その上へ影が落ちた。
はっとして顔をあげると、アルフォートが吐息を感じるほど近くに迫っていて、アリサは仰け反った。
「じゃあ、」
違う男の雰囲気を持ったアルフォートに、アリサは思わず、ひい、と声を漏らした。傷つくような色を瞳に浮かべたアルフォートは、アリサの座る椅子の手すりに手をおき、アリサを囲うようにその腕の中へ閉じ込めた。
「おれは?」
呟いた言葉に、主語はなかった。
「は?」
「おれは、いやなの?」
「え、な、なにがっ」
その真剣な瞳と、なれない雰囲気に慌てたアリサは、誤魔化すように早々と言葉を紡ぐことにした。
「えーと、あ、もしかして、一緒に旅に出たいの?な、なんだー、そんなに寂しかった?まったくアルフォートったら、---」
さみしがりやなんだから、と続けるはずだった言葉は、喉の奥で散った。
代わりに、むぐ、と喉から変な音が出る。喋らせないとでも言わんばかりに深く突っ込まれる。
アリサは驚きに目を見開き、その瞳からは徐々に生理的な涙が滲んだ。
口の中で動き回る長い指に、予測不可能過ぎてショートしたアリサは動けなかった。
…へ?
「誤魔化すなよ、」
初めて聞く低い声に、アリサは怯えるように身をすくめた。な、なんだ。
自らの身に何が起こっているのか理解できない。これがアルフォートなのか。あのアルフォートなのか。
泣きそうな思考は、舌を摘ままれたことでますます加速した。
冷たい指が、アリサの口内を蹂躙している。
「ん、や、」
「やじゃないだろ。わかってるくせに…」
咎めるような、責めるような眼差しに、アリサは震えた。指が、更に奥へと動く。
な、なにがわかっているというのだ。
アリサは小刻みに首を振った。
何もわからないから、こんなことになっているのだ。こんなことになっているから、わからないのだ。ほら、何もわかっていないではないか。
訴えるようにアルフォートを見つめると、彼はうろたえるように瞳をゆらした。
「隠してた。ずっと」
歯茎と舌の裏側をするりと撫でられる。
うあ、と変な声が出る。
「…だって、アリサに、…アリサのそばにいられないのが1番嫌だった…」
アルフォートは、悲痛な声で囁く。
「アリサが、可愛い子供のおれのことが好きなのは知ってた。子供みたいに無邪気なら、アリサは笑って遊んでくれた。大人になりたくなかった。だって、嫌われる。可愛くなくなったら、嫌われる…っ。……だから、ずっと、隠してた。演技して、段々低くなってく声も隠して、…」
な、なんだそれは。
なんの話だそれは。
今までのアルフォートが演技?
確かに17歳ってこんな子供だったかとか、王子でこれはどうなんだとか、思わないでもなかった。
けれど、それが全て、アリサのための演技だと言うのか。
確かに、弟みたいに可愛いアルフォートが好きだった。無邪気に笑って、後をついてきて、懐いているアルフォートが可愛いと思っていた。
けれど、だって!
そんなばかな!
「…ねえ、アリサ、」
水音を響かせて、抜かれた指が遠ざかる。ぐ、と唇を一撫でされた。
ようやく口内を自由を手に入れたアリサがふ、と体の力を抜くと、すぐに肩に重みがかかり、またアリサは固まった。
頭だ。
頭が肩に乗っている。
アルフォートは、アリサの肩に額を押し付け、そして、すりつけるように首筋へ埋めた。
ひい、とアリサはまた悲鳴を上げた。
はあ、とアルフォートの吐く息を首筋に感じて、アリサは鳥肌を立てる。ぎゅ、と抱きしめられて、優しく背中を撫でおろされる。
「……おれにしてよ、」
それは、絞り出すような声だった。
何度も何度も押し込められて、ようやく出てきた小さな声だった。
「…、え」
「リックなんか忘れて、アイのことも忘れて、おれだけ見ててよ」
「な、なな」
「おれは、ずっとアリサしか見てないんだから。……おれにすればいいじゃん」
ねえ、とぐずるように言う。
自分の首筋からアルフォートが鼻をすする音がして、アリサは殴ってやろうと固めていた拳から力を抜いた。
結局、子供みたいじゃないか。
「…あのねえ、アルフォートが大人になったって嫌いになんてならないわよ。ちゃんと遊んであげるし」
ずずっと、鼻をすする音が大きくなった。ほんとに?なんて聞くそれは、涙声である。
「…ほんと馬鹿なんだから。我慢しすぎなのよ。だから、爆発して人の口に指突っ込んだりするの。頭おかしいんじゃないの」
そう言ってため息をはいたとき、
「ひあっ」
首筋を舐められて、
アリサはやつの鳩尾に拳をぶち込んだ。
「うぐっ」
「馬鹿!まじで馬鹿!くそっ、近づくな変態!」
「うっ、だって今までアリサはリックのものだったんだから、仕方ないだろ!なのにいきなりふらふらしやがって、我慢の限界だ!」
「うるさい!婚約破棄は私のせいじゃないわよ!あー、もう我慢しすぎなんて言うんじゃなかったわ!我慢しなさい!もっと!あんたと結婚なんてしないわ!」
「…っ、そ、そんなこと言うんだ…」
子供のふりから始まり、リックの浮気を見せたのから泣き落としまで全て計算だというのは、アルフォートだけの秘密である。
「アリサがやっとおれのものになった!やっふー!」
「勝手にアテレコすんじゃねえよ、衛兵その1」
「……で?本性現したドSなアルフォートくん?」
「うざ、…。てか、まだ序の口。まだまだアリサは絆されてくれないと困る」
「怖いねえ、怖いねえ!んで、アリサちゃんはどうでしたかっ!」
「アリサちゃんとか気安く呼ぶな。そりゃアリサはいつだって可愛いだろ」
「ふーん?可愛いとな?」
「可愛いよ。お姉さんぶって遊んであげるとか言ってるときも、リックに騙されてるときも、裏切られて泣いてるときも、復讐に燃えてるときも、おれに泣き落とされたときも、口ん中指突っ込まれて泣きそうになってるときも、…ふ、あんとき涙目んなっちゃって、怯えたように小さくなってさ、……ふふ、アリサまじかわいー。
………あーあ、もっと泣かしてぇ」
「ぶるっ。」
「どうしたのアリサ」
「お、おお、友人よ。なんか今寒気がね…」
「えっ、風邪?あんた最近ついてないわねえ」
「風邪なのかなあ。はー、ほんとついてないわ。浮気されるし、口に指突っ込まれるし」
「いい加減諦めなさいよ。王子に外堀を完璧に埋められてるし、もう、王妃になるしかないんじゃないの」
「えっ、やだやだ!出家するわ!父上も父上よ!あんな似非王子に騙されて娘をほいほい嫁に出すなんて!出家よ出家!」
「今のその運で冒険者になったら、確実に死ぬわね」
「……う、うわああああん!」
「次は、どーすればいっかなー。もう嫁だって民に発表しよっかなー。ふふ」
「アリサちゃん…、かわいそうに…」