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4日目 必要な覚悟

 いくつもの角を意味も無く曲がり、その数が二桁に達する頃にアルフリッドは目的の屋敷に着いた。

 大きな門をくぐり、厩の当番の者に馬を任せて屋内へ向かう。そのまま軽く水浴びをしようと浴室へ向かう途中、大きなあくびをするカインに遭遇した。


「よーアルフ、おはよ」


「おはよう。そろそろ朝食済まさないと後がきつくなるぞ」


 半分も開いていない目をこするカインに苦笑しつつ、今日の予定を思って一言かける。朝食を抜くと身体が起きないし、かといってそれが予定時間の間近になると負担にしかならない。午後一に始まるだろう気重な予定を考えると、遅い朝食になるこの時間が最善だろう。


「ん、分かってる……お前はどっかでかけてたのか?」


「まぁ、な。ちょっと馬を走らせてきた」


「ふーん……ミリーナ嬢と?」


「なっ……なんでそうなるんだっ!」


「茶色の髪、ついてるぞ」


「――――っ!?」


 あたふたと自身を確認するが、特に何も見当たらない。じろりとカインを睨むと軽く掌を向けて謝罪を示した。


「朝っぱらから熱いなー、いちゃこきやがって! で、で? 何してきたんだよ? ちゃんと告白したのか?」


「そ、そんなこと……出来るわけないだろ」


 肩に腕をかけニヤニヤしながら聞いてくるカインに、尻すぼみな言葉を返す。


「アルフがこんなに気にかける子なんて初めてだもんなー、そう簡単にはいかないか」


 無言のまま斜め下に視線を投げるアルフリッドの顔をぐいっと自分に向けると、間近に迫った青い瞳を爛々とさせながら言葉を続けた。


「ちょっと聞いたんだけどな? ミリーナ嬢、あれで結構人気があるらしいんだ。といっても常連客がどーのってことじゃないぞ。れっきとした男だ、異性だ、同年代だ。そこんとこ、どう思うよ?」


「それは……何て言わせたいんだお前は」


「いや、別に? まぁ、どうも本人は自分を過小評価しがちだから気付いていないみたいなんだけどな。一歩近付くと半歩下がるといった様子だったみたいだ。けどそれは、近付き続ければいつかは辿り着くってことだよな。学校を卒業してからは同年代の男共も仕事に就き始めて余裕が無かったんだろうが、そろそろそれも慣れた頃だろうな。いいのか? オレらの知らない誰かがミリーナ嬢に迫るのを、お前はみすみす見逃すつもりか?」


「……お前はどこからそんな情報を仕入れてくるんだ」


「情報源を捕まえたからな。ミリーナ嬢の情報はミリーナ嬢本人よりも正確だ」


 自信満々な姿にため息をつき、カインの腕をやんわり払って壁に背を任せた。


「見逃したくは、ない……だが、俺にそんなこと思う資格があるとも思えない」


「ま、分からないでもないけどな。……けどなアルフ、オレ達には時間が無い。そこはしっかり頭に入れておけよ」


 こつんと拳を胸にぶつけ立ち去ろうとするカインの背中に、何か声をかけたかったがそれは言葉にならなかった。


「…………ミリーナ」


 ぽつりと呟き胸に手をあてると、おずおずと任せられた身体の重みと温かさが蘇り、それは次第に痛みにも似た感覚へと変わっていった。

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