第17話「楽しいと怖い」
二体に崩されて二日後、また来た。
降り口の前で少しだけ止まった。前より長く止まった。でも止まりきらなかった。
ゴブリン一体と遭遇した。手順通りにやった。倒した。それだけだった。
出口を出て、ベンチに座った。ノートを開いた。昨日の続きを考えていた。
二体を同時に見ようとするのが間違いかもしれない。では、どうするのか。答えはまだなかった。
しばらくして、緋色が出てきた。
頬が少し赤かった。息が上がっていた。僕より明らかに長く潜っていた。
出てきてすぐ、こっちに気づいた。ベンチのそばで立ち止まった。
「腕、また切られた?」
「……二体に遭遇した」
「深くはなさそうだけど」
緋色は腕をちらっと見て、それだけ言った。疲れているのに、どこか満足そうだった。
少し間があった。
緋色の顔を見ていたら、何か聞きたいような気がした。でも何を言えばいいのかわからなくて、一秒か二秒、ただ座っていた。声をかけるタイミングを探しているのか、諦めているのか、自分でもよくわからなかった。
つい、口から出た。
「楽しかった?」
声に出してから、少しだけ心臓がうるさくなった。自分から人に話しかけることなんて、ほとんどない。返事が返ってくるのかどうか、一瞬わからなかった。
「うん」
返ってきた。あっさりと。
なんとなく、少しだけほっとした。自分でも変だと思った。
「今日はけっこう動けたから」
僕は少しだけ黙った。
「僕は怖かった」
「そうだろうね」
緋色はあっさり言った。
「二体は、普通に嫌だった」
「うん」
「昨日からずっと、そのこと考えてる」
言ってから、少し喋りすぎた気がした。
でも緋色は変な顔をしなかった。少しだけ考えるみたいにしてから言った。
「怖いのに来るの、よくわかんない」
僕は少し眉をひそめた。
「……僕も、楽しいのはよくわからない」
緋色が少しだけ笑った。
「そっか」
それだけだった。
緋色は「じゃあね」と言って歩いていった。
緋色が行ってから、しばらくそのまま座っていた。
心臓がまだ少しうるさかった。さっきから続いていた。怖さとは違う、少し変な感じだった。自分から話しかけて、返事が返ってきて、それだけのことなのに。
なんだこれ、と思った。
ノートに一行だけ書いた。
楽しいと怖いは、たぶん別の話だ。
でも、どっちも明日また来る。
ノートを閉じた。
また明日来る。それだけだった。
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