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第14話「レベルアップ」

 ゴブリンスカウトと初めて遭遇した日、ノートにこう書いた。


 足の踏み出しを見る方向性はあってた。次は初速に慣れること。


 課題として書いたなら、潰しに行くしかない。怖いとかじゃなくて、そういう話だった。一度書いた課題を放置したまま別のことをやるのは、なんとなく嫌だった。だから翌日も、その次の日も、同じ通路を選んだ。


 ゴブリンスカウトと三度目に遭遇したのは、その日の奥の通路だった。


 一度目は切られて撤退。二度目は足の踏み出しを見て少し粘ったが、やはり倒せなかった。三度目の今日も、最初は同じだった。


 初速が速い。間合いが詰まるのが早い。肩を見ていたら間に合わない。足を見る。右足が出た、横へ動く。ナイフが横をすり抜けた。


 かわせた。


 でも問題はそこからだった。かわした後に間合いを詰めようとすると、もう次の踏み込みが来ていた。リーチが短いぶん、切り返しが速い。距離を取りすぎると的を絞られる。詰めすぎると対処できない。


 何度か打ち合いながら、少しずつ距離感を測った。


 ゴブリンと違って、重心が前に乗りすぎる癖がない。代わりに、体の向きを変えた一瞬だけ、次の踏み込みが遅れる。そこだ、と気づいたのは五分くらい経ってからだった。


 ゴブリンスカウトが体の向きを変えた。


 一瞬だけ、足が止まった。


 そこだ、と思った。


 踏み込んだ。パイプを振った。肩口に入った。よろめいた。


 今までと感触が違った。間に合った、と思った。


 そのまま続けた。止まるまで振った。


 光の粒になって、消えた。


 息が荒かった。腕が重かった。でも倒した。


 三度目でようやく倒した。


 その後、別の通路でゴブリンとも遭遇した。


 今日はもうかなり疲れていた。体が重い。反応が少し鈍い。それでも足は止まらなかった。


 いつも通りにやった。右肩を見た。横へ動いた。踏み込んだ。振った。


 完璧じゃなかった。最初の一撃は浅かった。


 でも手順は崩れなかった。もう一度振った。止まるまで振った。


 消えた。


 ベンチに座って、アプリを開いた。


 Lv.2。


 上がっていた。


 ……やっとか。


 感動とかそういうのは、あまりなかった。ただ、やっとか、と思った。これだけの数を積んで、ようやく数字が一つ動いた。


 見えるようになった、と思ったのは、もっと前だった。動けるようになった気がしたのも、数字より先だった。Lv.2は、そのあとからやっと追いついてきた感じがした。


 Lv.2になって何かが変わったかというと、よくわからなかった。体が急に軽くなるわけでも、視界が開けるわけでもない。ただ、アプリの数字が変わっていた。


 それでも、見ていたら少し、止まれた。


 しばらくしてから、緋色が出てきた。


 ベンチに座ったままスマホを見ていた僕に、緋色が少し首を傾けた。


「なんかいいことあった?」


 なんでわかるんだ、と思った。


「……Lv.2」


「そっか」


 緋色はそれだけ言った。おめでとう、とも言わなかった。


「遅いけど」


 少し間があって、緋色が続けた。


「ちゃんと上がってる」


 褒められた感じはしなかった。慰められた感じもしなかった。ただ、事実をそのまま置いた言い方だった。遅いのは本当だ。でもちゃんと上がっているのも、本当だ。


 その言い方が、嫌じゃなかった。


「……次のレベルまで、また十五exp要る」


「知ってる」


「ゴブリンだと十五体分」


「知ってる」


 緋色は少し笑った。馬鹿にしている笑い方じゃなかった。


 僕はノートを開いた。


 ゴブリンスカウト討伐、体の向きを変えた瞬間が隙。距離感は詰めすぎず離れすぎず。ゴブリン討伐、疲労状態でも手順は崩れなかった。Lv.2到達。


 書き終えてノートを閉じた。


 Lv.2になっても、まだゴブリン帯だ。まだ先は長い。


 でも今日、十体分積んだ。


 それだけは、確かだった。

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