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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

あこがれ

作者: 壱原 一

放課後の教室で2人して益体のない話に耽り、中座して自販機で飲み物を買って来る間に友人が居なくなっていた。


スマホに断りの類は来ていない。他に数グループ残っていたが、誰にことづけがある訳でもなく、去り際を目に留めた者も居なかった。


急用で()っと帰って、その旨を送信したつもりが送れていないとかだろうと自分も帰宅して以来□年、一向に行方が知れなかった友人の遺体が見付かったと実家の親から聞いた。


友人は制服で、中身も当時のままと見られる通学バッグを傍らに、遠い山中の廃屋の窓辺に放置されていた椅子へ、窓から景色を眺める風に凭れて座っていたと言う。


外傷や拘束の痕など他者の関与は元より、他の不審物も窺えず、居なくなってそう経たぬ内に事切れていた様子らしい。


目ぼしい交通網に痕跡はなかったのに、どうやってそれほど遠くまで移動したのか分かっていない。


見付けたのは廃墟探索動画配信者で、モザイク越しに学生のようだと紹介した。視聴者の内の誰かが演出だろうと看過せず通報してくれたとの事。


友人の親は怒り狂って、当の配信者が我が子で稼いだ筈のお金を差し出させると息巻いているそう。


友人は、遠方からの長距離通学組だった。地元組だった自分は、親しかったと自負しているが、互いの家や親は知らなかった。


行方が分からなくなってから、初めて親の訪問を受けた。


うちの餓鬼かくしてんだろ、出て来い逃がすと思ってんのかと鬼の形相で暴れられ、自分の親が警察を呼ぶまで、どういう家や親なのか想像した事もなかった。


やっぱり、家出だったんじゃないかと、通話口で親が声を落とす。


随分ながく気に病んで、親を心配させた自分は、曖昧に応じ、礼をして、通話を終えて目を閉じる。


こういうとこ浪漫あるよね、分かる、そのうち一緒いこうと、2人して画面を覗き込み話した放課後の教室で、えー、こういう所はさぁ、独りで行くのが良いんじゃんと、冗談めかして微笑んだ友人の姿を思い出す。


やだ、寂しい。一緒に行こう。


一緒いこう。連れて行ってよ。


――連れて行ってって言ったじゃん。


朽ちた木造の2階建て。窓辺から望む山間の、遥か向こうに海が見える。


心を奪われ、思い焦がれ、目を開け靴を履き外へ出る。


上の空でふらふら彷徨い、見えている其処へあくがれる。


このまま歩を進めていれば、すぐに辿り着けると分かる。



終.

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