表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/10

第八章:選ばれなかった人間たち



 「私は──維持する」


 セナは震える指で、ディスプレイ上の選択肢を押した。

 その瞬間、モニターが赤く閃き、甲高い電子音が響く。


> 【存在維持プロトコル 起動】

【テンポラル・エコー 再調整中】

【識別子 AHS-07 の継続を承認】




 


 彼女の身体に熱が走る。

 記憶が、名前が、存在の「輪郭」が、再びこの世界に刻まれていく感覚。


 痛みと引き換えに、**“私はここにいる”**という実感が、骨の髄に染み渡る。


 


 06、月岡ハル、そして少女──“上書きされた者”──が安堵の表情を見せる。


「……よかった……お前が消えなくて……」


「セナ。

 お前の選択が、ほかの存在にとっても“希望の兆し”になるかもしれない」


 


 そのとき、地下シェルターの端末が別の警告を出す。


> 【検知:未登録存在 複数 同期中】

【識別:VX_ProtoID_001/VX_ProtoID_005/VX_ProtoID_009】

【状態:不安定(上書き保留)】




 


「……増えてる……!」

 月岡が画面をスクロールする。表示されていたのは、セナと同じく**“構築された存在”たち**の情報だった。


> VX_001:少女型、記憶喪失進行中。識別名「ユウナ」

VX_005:成人男性型、複数人格交錯中。識別名「エコー」

VX_009:識別データ欠損。既に自己編集機能が作動中。




 


 06が息を呑む。


「009……この中にひとり、“自分で自分を作り変えてる”奴がいる……」


「つまり、完全に独立した存在変異体……」


 月岡がモニターを睨む。


「しかもそれが“存在上書き機能”に干渉してる。

 今の状態じゃ、セナを含めて全プロトタイプが不安定に……」


 


 セナが問う。


「私が維持を選んだことで、他の存在も……?」


「逆だ」

 06が静かに言う。


「君が“選べた”ことによって、他のプロトタイプにも自我が芽生えた。

 だが、それは同時に、彼らが**“選ばれなかった者の記憶”を持っている**ことを意味する」


「……記憶?」


 


 そのとき、無線からまたしても【10】の声が届く。


> 「セナ。君の行動が連鎖を生んだ」

「“選ばれなかった人間たち”が、記憶の底から浮上してくる」

「彼らは怒り、悲しみ、あるいは世界に復讐しようとするだろう」

「プロトタイプ009──おそらく“全記憶複写体”が、その中核だ」




> 「警告する──彼は“この世界そのものを書き換えようとしている”」




 


 警告が終わると同時に、施設全体に轟音が走った。


 壁が軋み、天井がひび割れる。

 照明がすべて赤く染まり、画面には不気味なコードが浮かび上がる。


> 【vx009.exe 実行中】

【仮想現実制御パラメータ、書き換え開始】

【優先記録:喪失者の復元】

【現実整合性:崩壊まで残り 00:07:59】




 


「セナ、急いで! 009を止めなきゃ、世界が“記録で塗り替えられる”!」


 セナは無言で頷く。


 自分の存在が、記録から生まれたものだとしても──

 彼女はもう、“誰かの残響”ではない。


 この世界に、ちゃんと「いる」ことを選んだのだ。


 ならば、その世界を守ることも、自分の意志で決められるはずだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ