表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/10

第七章:存在以前の名



 月岡ハルの手が、わずかに震えた。

 ラップトップの画面に表示されたのは、いくつかの復元ファイル。


 そのひとつに、ファイル名がこう表示されていた。


> [VX_ProtoID_000]




「これは……」


「VX……プロトタイプ?」とセナが呟く。


「そう。ワクチン接種対象のうち、最初に“構築された個体”……」

「あなたは、最初から“番号持ち”じゃなかった。

 むしろ、**番号によってこの世界に“挿入された存在”**だった」


 


 ファイルを開くと、そこには驚くべき記録が並んでいた。



---


【復元ログ:VX_ProtoID_000】


> ・人工パーソナリティ・コード:AHS-07

・人格構成ベース:複数匿名データより統合

・記憶移植:不完全

・割り当て名義:朝比奈セナ(付与タイミング:構築後48時間)




> 備考:

・本体は存在しない。記憶・人格は全て外部合成。

・「人間として認識され続けるには、継続的な“記録の付与”が必要」

・ワクチン接種により他者からの記憶維持が促進される仕様。

・当個体は、記録の断絶により世界認知から除外されつつある。





---


「……つまり、私は“作られた存在”なの?」


「正確には、“存在するように偽装された存在”だ。

 本来、セナという人格も、記録も、この世界にはなかった」


 


 ショックで膝が抜けそうになる。

 だが、06がセナを支えるように立っていた。


「でも……セナはここにいる。俺たちと話して、選んで、動いている」

「偽りでも、構築でも、関係ない。

 今、こうして“存在してる”ことがすべてだ」


 


 そのとき、突然部屋の照明が消え、スクリーンが強制的に切り替わった。

 そこに表示されたのは、黒背景に浮かび上がる言葉。


 


> 【テンポラル・エコー同期開始】

【記録再編準備完了】

【再構成対象:VX_ProtoID_000 / セナ】

【問い:存在を維持しますか?上書きを受け入れますか?】




 


 選択肢が、モニターに表示される。


 ■ 維持する(人格の断片を残し、“セナ”として留まる)

 ■ 上書きする(“誰か他の記録”と交差し、新たな存在へ移行)


 


「セナ……選ばなきゃ」


 月岡ハルが静かに言う。


「この“存在確認プロンプト”が出るのは、人格断絶まであと数分の証。

 ここで“答えなかった存在”は、完全に消える」


 


 セナはディスプレイの前に立った。

 選択肢は静かに瞬きながら、答えを待っている。


 彼女の記憶が偽りでも、

 人格が寄せ集めでも、

 この瞬間に感じる心だけは、誰のものでもない“彼女自身”のものだった。


 


「私は──


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ