第四章:番号たちの集会
04の“影”が闇の奥へと消えていった後、
06はセナをホーム端の鉄扉の先へ案内した。
「ここから先は“残った者たち”の避難場所だ。
番号持ちのうち、削除を免れた……ほんの一握りが集まってる」
階段を降りた先。
そこはかつての地下鉄の職員通路だった。
照明はなく、手製のLEDライトとポータブルバッテリーが辺りを照らしている。
雑多なマットレス、使いかけのノート、無線機、プリントされたワクチン配布のチラシ。
そして、その奥に**3人の“番号持ち”**がいた。
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番号保持者たち
1. 「05」:美園アリサ(中学2年)
小柄で快活な少女。ワクチン接種翌日から、自分のクラス全体が“別人”になっていたと語る。
「うちはたぶん、学校単位で“再構成”された」と言う。
2. 「08」:藤巻レンジ(大学1年)
物静かな青年。
自分以外の家族全員が削除された。特に「妹だけは、なぜか顔が思い出せない」と怯える。
3. 「03」:月岡ハル(30代女性/元・保健所職員)
元政府関連のデータ担当者。ワクチン情報に内部不正を感じ逃亡。
「“番号”は本来、医療記録ではなく**“存在性評価ラベル”**として分類された」と告げる。
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「……よく来たね、“07”さん」
月岡ハルがセナに手を差し出す。
細く、しかし芯のある目をしていた。
「君の記録、断片的に確認できてる。“消去速度”が早い」
「恐らく君は、“記録を遡って消される特異型”だよ」
「遡って……?」
「普通は、今日の記憶が消されていく。でも君の場合は**“過去の存在”まで書き換わっていく”。
これが進行すると──“親ですら、君を産んだ記憶がなくなる”**」
静まり返る集会所。
藤巻レンジが、震えた声で言った。
「なぁ……さっき、玄関付近に**“番号のないやつ”**がいた気がしたんだが……見たか?」
「……番号のない、って?」
「腕を見せてた。でも、何もなかったんだ。
印も、痣も、コードも。……なのに、俺らのことを知ってた」
その言葉に、セナの背筋が凍る。
番号なし。
削除対象にも、分類対象にもならない存在。
まるで──「管理から外れたデータ」。
そのとき、入口の金属扉がカン、と鳴った。
一度。二度。……三度。
誰かが、一定のリズムでノックしている。
「暗号じゃない……応答信号でもない……」
「セナ、こっちに来て──絶対に声を出さないで」
06がセナの腕を引いて、備え付けの隠し扉へ押し込む。
その中は狭く、わずかに空いた通気孔から外をうかがうことができた。
金属扉が、ゆっくりと開く。
現れたのは、全身を黒いコートで包んだ人影。
顔が見えない。手袋をしている。だが、まっすぐこちらを見ていた。
次の瞬間、その人物が静かに口を開いた。
> 「……ここには、“消えた者たち”が集まっている」
「君たちは、“選ばれなかった記録”だ」
「──なら、上書きすればいい」
その言葉のあと、通路の蛍光灯がすべて一斉に消えた。
そして、真っ暗闇の中。
セナは、自分の記憶の一部が急激に失われていくのを感じた。
> 「やばい、“番号なし”の奴……これは削除じゃない、“上書き”だ……!」