第二章:記憶を紙に書け
夜。
机の上にノートを開き、セナはペンを握ったまま手を止めていた。
スマホに届いた謎のメッセージ。
「記憶を紙に書け」──それだけが、自分の“存在”を守る術だという。
「……馬鹿みたい。でも……消えるのはもっと嫌だ」
ノートにペンを走らせる。
書き出したのは、“篠田ケンタ”という存在のすべて。
後ろの席だった
数学のノートを貸してくれた
味噌汁に絶対ネギ入れない
物理の授業で寝て怒られてた
修学旅行で、私がカメラ落としたとき助けてくれた
そのときだった。
ノートの紙が、微かに脈打った。
「……っ!?」
目を凝らすと、文字のいくつかが震え、にじみ、そして**“赤いインク”のように変化していく。**
そして最後の一行。
《抹消済》
──遅かった。
書き留めるには、もう“間に合わなかった”のだ。
机の下で、スマホが再び震える。
> 【ログ記録:失敗】
【篠田ケンタ:個体情報、完全削除】
【識別コード:07──残り時間:48時間】
セナは震える手でスマホを掴んだ。
下に、未読のメッセージが追加されている。
> 【“06”より:生きてるなら、次の駅に来い】
【明日21時、旧・千歳駅地下4番ホーム】
【他にもまだ、“番号持ち”はいる】
セナはそこで、初めて思い出す。
ワクチン接種直後、体育館で倒れていたひとりの生徒。
あの子も確か、左腕に──09という痣を持っていた。
その子の名前は……思い出せない。
いや、違う。
思い出せないんじゃない──思い出すことが“禁じられている”のだ。
> 「世界が、誰かをひとりずつ“消してる”……。
しかも、誰にも気づかれないように、完璧に」
> 「これ、ただの副作用なんかじゃない……」
翌日。
セナは放課後、誰にも言わずに旧・千歳駅へと向かう。
地下鉄の廃線跡。
封鎖されたホーム。
“そこ”にいるのは、一体何者か。
そして、“06”と名乗った者の正体は──?