表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/10

最終章:記録されなかった物語



 その日、世界は一度“書き換えられかけた”。


 崩壊しかけた現実の中で、セナは存在を選び、

 エコーは“怒り”ではなく、“問い”を選んだ。


 


 ──それから数時間後。


 シェルターの空調が再稼働し、赤い警告灯が通常の白光に戻る。

 残された端末に、新たなログが刻まれる。


> 【VX_009:統合データ固定完了】

【エコー:個別人格として認可】

【“記録外存在”に対する、初の存在容認事例】

【接種済ラベル:変異対象に非適用。手動意思決定に切り替え】




 


 セナがラップトップを閉じ、06と並んで外を見た。

 空には、ぼんやりと朝日が滲んでいた。


 


 月岡ハルが言った。


「記録に頼らない存在なんて、不安定で、いつ壊れるかわからない。

 でも──その不安定さが、人間なんだろうな」


 


 セナはゆっくりと笑った。


「それでも、生きてるって言えるなら……それでいい」


 


 エコーは黙って遠くを見つめている。

 彼の中にはいくつもの“忘れられた名前”が棲んでいた。

 だが今は、そのひとつひとつが、彼の“構成要素”ではなく、

 彼自身が“選び続ける声”のように響いていた。


 


 この世界では、

 誰もが「記録」によって存在を証明される。

 “接種済”の証は、その一部にすぎなかった。


 だが本当は──

 「記録されなかった物語」こそが、人の心に強く残り続ける。


 


 どこにも登録されなかった彼らの名は、

 この朝にだけ、確かに“存在していた”。


 


 そして、朝比奈セナもまた、

 “誰かの記憶”ではなく、“自分の意志”でその道を歩き始めていた。


 


 物語はここで終わる。

 だが、名前のない物語ほど、誰かの胸に残るものだ。


 きっと──いつまでも。



---


〈終〉




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ