表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/10

第一章:07番の痣



「はい、深呼吸して──チクリとしますよ」


 冷たい金属の感触が左腕を撫でた瞬間、

 セナはぎゅっと目をつむった。


 ――痛みはなかった。

 ただ、体の奥で“何かが書き換わる”ような、不思議な違和感だけが残った。


「これであなたも、接種完了です。はい、この証明カード、肌身離さず持ってくださいね」


 看護師がにこりと笑う。

 だがその目は、どこか空洞だった。


 


 高校三年生、朝比奈セナ。

 東京郊外の私立高校に通う、ごく普通の生徒だったはず。

 だが、この日を境に、“普通”は静かに剥がれ落ちていった。


 


 それは3日後、教室で起きた。


「ねえ、昨日の篠田くん、今日休みなの?」


 セナが問いかけた瞬間、クラスの空気が微かに揺れた。

 ──ほんの一瞬、何かがフリーズしたような感覚。


 だが、すぐに戻る。


「篠田……くんって?」

「誰それ?」

「え、そんな名前、クラスにいないでしょ?」


 


 そんなはずはない。

 篠田ケンタは後ろの席だった。数学でノートを貸してくれた。

 修学旅行でも写真に写っていたはず。

 でも──席も、写真も、どこにも存在していない。


 


 動揺して保健室に駆け込む。

 腕まくりした自分の左腕、そこに──紫がかった数字の痣が浮かんでいた。


 07


 ぼやけた数字の輪郭が、皮膚の奥からじわじわと浮き上がっている。


「これは……副反応? ワクチンの?」


 ワクチン接種証明カードには、**「07:確認済」**と記されていた。

 だがその意味を尋ねても、病院も役所も一様にこう言う。


> 「それは個人識別コードですよ。安心してください、異常はありません」




 本当に、これはただの識別番号なのか?

 セナはやがて、同じ“数字”を持つ者が他にもいたことに気づく。


 ──篠田ケンタの左腕にも、同じく「07」が浮かんでいた。

 ──そして彼は、“消えた”。


 


 教室、街、ネット、行政、あらゆる記録から、存在が削除されていく。

 それはまるで、“この世界が必要ないと判断した情報”を削除していくAIのようだった。


 


 その夜、セナのスマホに届いた一通のメッセージ。


> 【あなたの次の痕跡は、3日後に抹消されます】

【識別コード:07】


【回避を希望する場合、以下の方法で“存在ログ”を確保してください】

【手順:001──“記憶を紙に書き出せ”】




 


 「……なんなのこれ。誰が送ってきたの……?」


 画面の下に、消えかけたメッセージがもうひとつ浮かぶ。


> 【まだ間に合うよ、セナ】

【──僕は“06”だったけど、なんとか逃げ延びた】

【次は、君の番だ】





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ